1 はじめに
事故車両を修理しても、事故歴がついたことにより、車両の価値が下落する場合があります。この場合、被害者は、修理費用とは別に、価値下落分を請求することがあります。これが評価損の問題になります。
評価損が認められる場合、被害者は、修理費用の10~30%を請求することができます。そこで、以下では、評価損が認められるための考慮要素、評価損の請求者について説明していきます。
2 評価損の考慮要素
一般的には、
①初年度登録からの期間
②走行距離
③損傷の部位(程度)
④車種
⑤購入時の価格
⑥レッドブック中古車小売価額
などが考慮されます。
以下では、①~⑥の考慮要素のうち問題となる要素に絞って説明していきます。
3 損傷の部位(程度)
車両の損傷が骨格部分(例えばフレーム・ピラー)の変形にまで及んでいなければ評価損は認められない、という見解があります。過去に保険会社との交渉した際、相手方はこのような見解に基づき評価損の支払いを拒んできたケースがありました。
しかし、裁判例では、骨格部分まで損傷していなくても、他の考慮要素を考慮し、評価損を認めている場合もあります。むしろ、損傷が骨格部分まで及んでいることは評価損を認めるためのプラスの要素として考慮されていると思われます(後述の熊本地判令和4年2月8日も参照)。
4 走行距離
1 外国車
高級な外国車の場合、初年度登録から5年(走行距離が6万㎞)を超えてくると、評価損が認められない傾向にあると言われています。
高級外国車であるベンツの評価損を認めた以下の3つの裁判例においても、初年度登録から5年(走行距離が6万㎞)を超えていませんでした。
【岡山地裁平成21年10月29日】
車種はSクラスAMG、購入価格は約1700万円、修理費用は約56万円、初年度登録から3年弱、走行距離は約3万キロメートルでした。
→裁判所は、評価損として修理費用の36%に相当する20万円を認めました。
【京都地裁平成18年9月22日】
車種はCL600、購入価格は1800万円弱、修理費用は約170万円、初年度登録から5年弱、走行距離は4.7キロメートルでした。
→裁判所は、評価損として、修理費用の30%に相当する51万7230円を認めました。
【名古屋地裁平成21年1月23日】
車種はML320、修理費用は約210万円、初年度登録から約4年、走行距離は約6万キロメートルでした。
→裁判所は、評価損として、修理費用の10%に相当する20万円としました。
2 国産車の場合
高級な国産車の場合、初年度登録から3年(走行距離が4万㎞)を超えてくると、評価損は認められにくいとされています。
5 車種
評価損は、高級な外国車(例えばベンツ)や国産車(例えばレクサス)のみ認められると考えられがちです。もっとも、以下のとおり大衆国産車の場合でも評価損が認められる場合があります。
熊本地判令和4年2月8日(自動車保険ジャーナル2121号掲載)では、日産デイズルークスの評価損が問題となりました。
裁判所は、「大衆国産車に属するものの」としながら、事故当時の走行距離が2193㎞と短距離であったこと、左センターアウターピラーが損傷しており車体の骨格部分の損傷が認められること、レッドブックの同種車両の時価は127万円と高額であったこと、初年度登録から事故まで約1年3月しか経過していないことを考慮し、修理費用の15%を評価損として認めました。
6 ローンで購入した場合と評価損
ローンで購入した車両の評価損の請求に関する解説記事はこちら▶コラム:物損に関する請求権者
7 最後に
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