1 はじめに
東京高裁令和6年8月29日の事案を紹介します。
2 事案
相続人は子2名のみで、遺産は、現金363万3323円、マンション(評価額2000万円)でした。相続人の1人が保険金受取人として受領した死亡保険金の額は531万9946円でした。
遺産分割調停の申立後、子2名は、双方合意のもと本件マンションを2000万円で売却し、それぞれ1000万円、合計2000万円の支払を受けていました。
原審は、生命保険金を特別受益に準じて取り扱うかの判断に際し、遺産総額は、約363万円の現金のみとし、上記2000万円を含めませんでした。その上で、原審は、生命保険金の受取人ではない相続人側が「本件マンションの売却のために本件マンションから退去し転居費用の負担が生じたこと」を斟酌して、保険料総額192万円の限度で特別受益に準じて持ち戻しを認めました。
3 抗告審の判断
保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率について次のとおり判断しました。
「・・本件マンション売却前の被相続人の遺産は、本件遺産(現金363万3323円)及び本件マンションであり、本件マンションは、その後、代金2000万円で売却されたことが認められる。そうすると、本件マンションの遺産としての評価額は、売却価格と同額の2000万円とするのが相当であるから、被相続人の遺産の総額は、本件遺産の評価額363万3323円に本件マンションの評価額2000万円を加えた2363万3323円であると認めるのが相当である。」「抗告人が保険金受取人として受領した本件保険の死亡保険金の額は、531万9946円であるから、この額の上記遺産の総額に対する比率は、約22.5%(531万9946円÷2363万3323円≒0.225)となる。」
また、生命保険金の受取人ではない相続人側の生活実態について、次のとおり認定しています。
「相手方が実家や本件マンションに居住するについて、亡Aや被相続人に家賃又は使用借料を支払っていたなどの事情は、一件記録を精査しても窺われないから、相手方は、亡Aや被相続人から、少なくとも実家や本件マンションに無償で居住する利益を付与されていたということができる。なお、一件記録を精査しても、相手方が被相続人と同居していた間、被相続人の介護等に貢献したなどの事情は窺われない。」
4 最後に
一般的には、保険金の額の遺産の総額に対する比率が最も重要な指標であり、その比率が3分の1を越えてくると特別受益に準じて取り扱う方向になると言われています。抗告審の判断によれば、上記比率約22%にとどまるため、特別受益に準じて取り扱う方向で考えることは難しいという判断に繋がります。
