1 はじめに
相続財産の保存に必要な処分の改正点について説明していきます。
2 改正の内容
「家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。」ことになりました(民法897条の2第1項)。
これまでは、共同相続人が単純承認した後に相続財産の管理がなされていない場合、あるいは相続人が明らかでない場合に相続財産清算人が選任されていないため相続財産の管理がなされていない場合について、相続財産の管理人についての選任規定が設けられていませんでした。そこで、改正法ではこれらの場合についても相続財産の管理人が選任できるようにしました。改正法では相続財産の管理人の適用範囲を拡張したため、改正法では「いつでも」という文言としています。
3 相続財産の保存に必要な処分を命ずることができない場合
「相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。」とされています(民法897条の2第1項但書)。これらの者が相続財産の管理をするべきであり、別途、相続財産の管理人を選任するべきではないという考慮に基づきます。
4 権限と義務
相続財産の管理人は、保存行為、物又は権利の性質を変えない範囲内においてその利用又は改良を目的とする行為を単独ですることができます。これを超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得なければいけません(民法897条の2第1項、同28条)。
また、相続財産の管理人は、善管注意義務を負うことになります(家事事件手続法190条の2第2項→同法125条6項→民法644条)。
5 供託
相続財産の管理人は、相続財産の財産の管理、処分などにより金銭が生じたときは、当該金銭を供託することができることになりました(家事事件手続法190条の2第2項→同法146条の2第1項)。
相続財産の管理人が相続財産の処分等により金銭を得ることになった場合、相続人に当該金銭を返還することになりますが、相続人が明らかでない場合、相続人が判明しているとしても協力的でない場合も想定されるところ、これらの場合は相続財産の管理人はいつまでも金銭を管理し続けれなければいけないことになるので、こうした不都合を解消するために新たに供託制度を設けられることになりました。