1 はじめに
遺言は全ての財産を遺贈するという単純明快なものでしたが、その内容が不合理であることなどを理由に遺言能力を否定した東京高判平成22年7月15日を紹介します。
2 東京高判平成22年7月15日
1 事案の概要
※後述「2」で引用した判旨に関係する範囲で事案の概要を紹介します。
・亡A(長女)にはB及びCの2人の妹がいた。
・BはDと婚姻し、EとFが生まれた。Bは病弱だったので、EとFはAらにより養育された。Bが昭和34年に死亡した後は、AがEとFを養育した。AはGと婚姻した後も家族で生活した。
・昭和44年12月、Eは、Hと婚姻し、独立した。その後、昭和52年にGが自宅を取得して以降、同所において、EとHは、A及びGと同居して生活してきた。
・昭和56年、Gは、脳梗塞で倒れて左半身不随になった。当初はAが面倒を見たが、次第にAとHと2人で面倒を見るようになった。その後、Gが食事が取れなくなり、胃瘻を設ける手術を行った後は、HがGの介護をした。Gは平成14年4月に死亡した。
・平成15年8月、Aは、E・Hとの間で養子縁組をした。
・平成17年12月16日、A(当時87歳)は、Cに全ての遺産を遺贈する旨の公正証書遺言を作成した。
2 判旨
「・・本件公正証書による遺言の内容は、長年Aと同居して介護に当たり、養子縁組もしているEらに一切の財産を相続させず、Cに遺贈するという内容であり、特にAの財産に属する本件不動産にはEらが居住していることも合わせ考えると、このような認知症の症状下にある亡Aには、上記のような遺言事項の意味内容や当該遺言をすることの意義を理解して遺言意思を形成する能力があったものということはできない。」