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コラム:無申告の自営業者が交通事故に遭った場合の逸失利益

2024.05.05
1 はじめに

自営業者が交通事故に遭った場合、休業損害、後遺障害逸失利益の額が問題となります。休業損害と逸失利益の計算に際しては基礎収入を確定する必要がありますが、自営業者の基礎収入は事故前年の確定申告所得額によって認定するのが原則となります。

では、全く税務申告がなされていなかった場合、基礎収入をどのように算定するべきでしょうか。

この点について、無申告の場合であっても、相当の収入があったと認められる場合、賃金センサスの平均賃金額などを参考に基礎収入額を算定することが多いとされています。

以下では、無申告の自営業者が交通事故に遭い、後遺症逸失利益の基礎収入額が争われた裁判例(大阪地裁令和4年3月25日・自動車保険ジャーナル2126号)を紹介します。

 

2 大阪地裁令和4年3月25日(自動車保険ジャーナル2126号)
1 事案の概要

原告は、居酒屋を経営していましたが、確定申告をまったくしていませんでした。事故後、親族が、休業損害の仮払いを受けるために確定申告を代行しました。そこで、原告は、確定申告書の所得額480万3670円が基礎収入であると主張しました。

 もっとも、総務省統計局編の個人企業経済調査によれば、飲食サービス業の平均は営業利益135万7000円あり、原告の営業利益はそれを遥かに上回るものでした。被告側はこの点を指摘し、基礎収入は135万7000円にとどまると反論しました。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、確定申告の所得額を基礎収入とはせず、以下のとおり賃金センサスを参考に基礎収入を算出しました。

「『居酒屋』Hは、当時は繁盛していたこと・・・、立地・建物の種類・・・からすれば、地代家賃が非常に低廉であったと認められること、平均と比較して反訴原告の労働能力が低い又は制限されていた事情は特に認められないことから、反訴原告の休業損害及び逸失利益における基礎収入は、351万8200円/年(賃金センサス平成14年女・学歴計・全年齢)と認められる。

「反訴原告は、基礎収入を378万3900円/年(賃金センサス平成14年女・学歴計・30~34歳)で認めるべきと主張する。しかし、「居酒屋」Hが繁盛していたのは、飲酒運転することに抵抗感がなかった顧客に支えられていた等の本件事故(平成14年1月1日)当時の特殊な事情によるものである・・。平成18年に発生した福岡海の中道大橋飲酒運転事故により全国で飲酒運転が重大な社会問題となったこと等、口頭弁論終結時における公知の諸事実からすれば、「居酒屋」Hの繁盛が長期に亘った蓋然性は認められないから、反訴原告の主張は認められない。」

「他方、反訴被告は、反訴原告が主張する売上等は、個人企業経済調査による平成24年飲食サービス業の営業利益率15.4%(≒営業利益135万7000円/年÷平均売上高879万4000円/年)等と大きく相違すると主張する。しかし、一般的に、個人事業主が申告する経費には家計が混入され、営業利益が低くなりがちで、特に飲食業では、その蓋然性が高いと考えられる。また、前記営業利益は、賃金センサスと比較して極めて低額であるから、これが平均的な基礎収入とは考えられない。したがって、反訴被告の主張は採用できない。」

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