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コラム:法定単純承認である「相続財産の隠匿」の裁判例

2024.03.25
1 はじめに

相続人が相続放棄の申述を行った後、相続財産を隠匿した場合、法定単純承認にあたり、相続したものとみなされることになります(民法921条3号)。以下では、相続財産の隠匿に当たるかが問題となった東京地判平成12年3月21日を紹介します。

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2 東京地判平成12年3月21日
1 事案

被相続人が生前に住んでいたマンションには、スーツ、洋服(多くは新品同様のもの)、毛皮、カシミア製のコート、100足程度の靴(多くはあまり使用されていないもの)の遺品が保管されていた。

被相続人の母は、相続放棄の申述受理がなされた後、上記の遺品のほとんどを自宅に持ち帰った。

 

2 原審(簡裁)

被相続人の夫の親族の了承のもとも持ち帰ったこと、遺品の多くは母の自宅で保管していることから、相続財産の隠匿には当たらないと判断しました。

 

3 控訴審

【一般論】

「・・・相続人が限定承認又は相続放棄をする一方で、相続財産の隠匿等の行為をした場合には、被相続人の債権者等の利害関係人が相続財産を把握できない等の不利益を被ることになってしまう。そこで、民法九二一条三号は、右のような相続人による被相続人の債権者等に対する背信的行為に関する民法上の一種の制裁として、相続人に単純承認の効果を発生させることとしたものである。
したがって、同条三号の規定する相続財産の「隠匿」とは、相続人が被相続人の債権者等にとって相続財産の全部又は一部について、その所在を不明にする行為をいうと解されるところ、相続人間で故人を偲ぶよすがとなる遺品を分配するいわゆる形見分けは含まれないものと解すべきである。また、同号に該当するためには、その行為の結果、被相続人の債権者等の利害関係人に損害を与えるおそれがあることを認識している必要があるが、必ずしも、被相続人の特定の債権者の債権回収を困難にするような意図、目的までも有している必要はないというべきである。

【あてはめ①:客観的要件】

前記認定事実によれば、被控訴人が二度にわたって持ち帰った遺品の中には、新品同様の洋服や三着の毛皮が合まれており、右洋服は相当な量であったのであるから、洋服等は新品同様であっても古着としての交換価値しかないことを考慮してもなお、持ち帰った遺品は、一定の財産的価値を有していたと認めることができる。そして、被控訴人は、夏子の遺品のほとんどすべてを持ち帰っているのであるから、夏子の債権者等に対し相続財産の所在を不明にしているもの、すなわち相続財産の隠匿に当たるというほかなく、その持ち帰りの遺品の範囲と量からすると、客観的にみて、いわゆる形見分けを超えるものといわざるを得ないのである

【あてはめ②:主観的要件】

被控訴人は、夏子に少なくとも二〇〇万円の負債があることを知りながら、二度にわたり、一定の財産的価値を有する夏子の遺品のほとんどすべてを持ち帰っているのであるから、右持ち帰り行為が、客観的にみると夏子の債権者等に損害を与えるおそれがあることについての認識は有していたことが推認される。

 

3 最後に

以上、法定単純承認である「相続財産の隠匿」の裁判例について説明していきました。この裁判例では、一定の財産価値を有しているものを多数持って行ったたため、形見分けの範疇を超えると判断された事案です。形見分けを考えている方は、その範疇を超えているか否かの判断は難しいため、弁護士のなどの専門家に相談したほうがよいと思われます。

相続放棄について全般的な説明については関連記事をご参照ください。

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