TOPICS

コラム:遺産分割と法定単純承認である相続財産の処分

2024.03.25
1 はじめに

相続人が甲、乙、丙と3名おり、甲に遺産全部を取得させる遺産分割協議がなされた後、被相続人に多額の相続債務が発覚した場合、遺産を取得しなかった乙と丙は相続放棄申述をすることがあります。この場合、乙と丙が遺産分割をしたことが相続財産の処分(民法921条1号)にあたり、法定単純承認に該当するため、相続放棄申述は認められないのではないかが問題となります。以下では、まさにこの点が問題となった大阪高裁平成10年2月9日決定をご紹介します。

【関連記事】

✔相続放棄についての一般的な解説記事はこちら▶相続放棄

 

2 大阪高裁平成10年2月9日決定
1 原審

原審は、乙丙は本件遺産分割協議により遺産について処分行為をしたもので、これは法定単純承認事由に該当するので、相続放棄の申述の申立てを却下しました。

 

2 控訴審

以下のとおり、遺産分割協議が要素の錯誤にあたり無効となり、ひいては法定単純承認の効果も生じないとみる余地があると判断しました。

「抗告人らは、他の共同相続人との間で本件遺産分割協議をしており、右協議は、抗告人らが相続財産につき相続分を有していることを認識し、これを前提に、相続財産に対して有する相続分を処分したもので、相続財産の処分行為と評価することができ、法定単純承認理由に該当するというべきである。しかし、抗告人らが前記多額の相続債務の存在を認識しておれば、当初から相続放棄の手続を採っていたものと考えられ、抗告人らが相続放棄の手続を採らなかったのは、相続債務の不存在を誤信していたためであり、前記のとおり被相続人と抗告人らの生活状況、Bら他の共同相続人との協議内容の如何によっては、本件遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある。」

また、事実の調査は一応裏付ける程度の資料があれば足りるとも判断しました。

「そうすると、本件申述を受理すべきか否かは、前記相続債務の有無及び金額、右相続債務についての抗告人らの認識、本件遺産分割協議の際の相続人の話合の内容等の諸般の事情につき、更に事実調査を遂げた上で判断すべきところ、このような調査をすることなく、法定単純承認事由があるとして本件申述を却下した原審判には、尽くすべき審理を尽くさなかった違法があるといわなければならない。なお、申述受理の審判は、基本的には公証行為であり、審判手続で申述が却下されると、相続人は訴訟手続で申述が有効であることを主張できないから、その実質的要件について審理判断する際には、これを一応裏付ける程度の資料があれば足りるものと解される。

 

3 最後に

以上、遺産分割と法定単純承認である相続財産の処分について説明していきました。裁判例でも言及されているとおり、遺産分割協議は、相続財産に対して有する相続分を処分したものなので、相続財産の処分行為となるのが原則です。もっとも、一定の場合には法定単純承認に該当しない場合もありますので、諦めないことが大事です。

相続放棄全般については関連記事をご参照ください。

【関連記事】

✔相続放棄全般についての解説記事はこちら▶コラム:相続放棄について

無料相談

無料相談

078-361-3370

078-361-3370

お問い合わせ

お問い合わせ