1 はじめに
被相続人名義の預金を解約し、そこから葬儀費用に充てたとしても、費用が社会通念上相当であれば、法定単純承認である「相続財産の処分」にあたらないとされています。では、葬儀費用ではなく、仏壇や墓石の購入費用に充てた行為は「相続財産の処分」(民法921条1号)にあたるでしょうか。これが争点となった大阪高判平成14年7月3日を紹介します。
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2 大阪高判平成14年7月3日
1 事案
被相続人は平成10年4月27日に死亡し、相続人らが葬儀を行い、香典として144万円を受領しました。
また、被相続人名義で預入金額300万円の郵便貯金(以下「本件貯金」という。)があり、相続人の一人が本件貯金を解約しました。その解約金は302万4825円でした(香典と合わせると446万4825円)。
その上で相続人らは、446万4825円から、被相続人の葬儀費用等として273万5045円を支出したほか、仏壇を92万7150円で、墓石を127万0500円で購入しました。不足分46万円余りは相続人らが負担しました。
その後、平成13年10月になって、信用保証協会から、被相続人あてに、約6000万円の負債がある旨の通知書が届きました。そこで、相続人は、通知書が届いてから3か月以内である平成13年11月27日、本件相続放棄の申述をしました。
2 判旨
原審は、預金を解約し、その一部を仏壇や墓石の購入費用の一部に充てた行為は、葬儀費用の支払いと同列に考えることはできないし、購入費用も高額であるとし、「相続財産の処分」に該当すると判断しました。しかし、高裁は、以下のとおり述べ、原審の判断を覆しました。
「葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである。」
3 最後に
以上、 被相続人の預金を仏壇や墓石の購入費用に充てた行為は法定単純承認である「相続財産の処分」にあたるかについて説明していきました。この裁判例は、被相続人の預金を仏壇や墓石の購入費用に充てた行為が類型的に相続財産の処分に該当すると判断したわけでありません。不相当に高額な仏壇や墓石を被相続人の預金で購入した場合は法定単純承認である「相続財産の処分」にあたります。
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