1 はじめに
相続人の一人が被相続人からマイホーム購入費用の生前贈与を受けたなど特別受益を受けた場合であっても、被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をしたのであれば、当該相続人は持戻義務を負うことはありません(民法903条3項)。
相続人が特別受益を取得するにあたっては、生前贈与、遺贈の2つの方法がありますが、遺贈の場合は要式行為のため(民法960条)、持戻し免除の意思表示も遺言に基づき行われなければいけないのでしょうか。
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2 考え方
1 学説
遺言に基づかなければいけないという説、(遺言によらずとも)意思表示があれば足りるという説があります。
2 裁判例(大阪高決平成25年7月26日)
裁判例は、持戻し免除の意思表示は必ずしも遺言によらなければいけないわけではないが、遺言は要式行為なので、生前贈与よりも明確な意思表示が存在しなければいけない、としました。
「抗告人に対する特別受益は本件遺言によるものであるところ、本件遺言には持戻免除の意思表示は記載されていない上、仮に遺言による特別受益について、遺言でなくとも持戻免除の意思表示の存在を証拠により認定することができるとしても、方式の定められていない生前贈与と異なり、遺言という要式行為が用いられていることからすれば、黙示の持戻免除の意思表示の存在を認定するには、生前贈与の場合に比べて、より明確な持戻免除の意思表示の存在が認められることを要すると解するのが相当である。また、このような生前贈与との方式の相違に加えて、本件の場合、被相続人が相続開始時点で有していた財産の価額に占める特別受益不動産の価額の割合は四割であること・・・からも、黙示の持戻免除の意思表示の存在を認定するには、民法の相続人間の公平の要請を排除するに足りる明確な持戻免除の意思表示の存在が認められることを要するものと解するのが相当である。」
3 最後に
以上、特別受益に該当する遺贈と持戻し免除の意思表示について説明しました。関連して、特別受益に該当する生前贈与の持戻し免除の意思表示については関連記事をご参照ください。
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