1 はじめに
生活保護の受給中に就労により収入を得たり、交通事故による賠償金を得た場合、保護費から自治体に返還しなければならないことがあります。このような自治体が、利益を得た受給者に対して有する不当利得返還請求権を、生活保護法63条返還債権といいます。
生活保護の受給者が自己破産した場合、この生活保護法63条返還債権は免責、つまり、返済しなくてよいのでしょうか。
2 現行法の規律
現行法では、生活保護法63条返還債権は、財団債権(又は優先的破産債権)であり非免責債権とされています(破産法97条4号、破産法253条1項1号)。これは、生活保護法77条の2第2項が、生活保護法63条返還債権を「国税徴収の例により徴収することができる」と規定しているからです。
ところで、生活保護法77条の2第2項は、平成30年法律第44号により新設された規定であり、これについては経過措置が定められていいます。同法附則4条は、「生活保護法第77条の2の規定は、この法律の施行の日以後に都道府県又は市町村の長が支弁した保護に要する費用に係る徴収金の徴収について適用する」と規定しており、同法の施行日は平成30年10月1日です(附則第1条)。そのため、平成30年10月1日までに支弁された生活保護費については、生活保護法77条の2第2項は適用されません。
つまり、平成30年10月1日以前に支弁された保護費についての生活保護法63条返還債権は自己破産により免責されますが、以後に支弁された保護費については免責されないため、自己破産の申立の際には注意が必要です。
参照条文 生活保護法(令和5年4月1日施行)
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
第七十七条の二 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けた者があるとき(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く。)は、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、第六十三条の保護の実施機関の定める額の全部又は一部をその者から徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。
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3 最後に
以上、生活保護法63条返還債権と免責についてご説明しました。自己破産については関連記事もご参照ください。
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