1 はじめに
交通事故で亡くなった被害者のご遺族は加害者に対して死亡逸失利益を請求することができます。
死亡逸失利益は、
基礎収入×(1−生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数
で計算することになります。
以下では、死亡逸失利益の計算方法について説明していきます。
2 基礎収入
1 給与所得者
基礎収入額は、事故前年の年収で計算するのが原則です。
もっとも、若年労働者の場合、平均賃金を得られる蓋然性が認められれば、平均賃金を基礎収入とします。
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2 自業所得者
基礎収入額は、事故前年の確定申告所得額で計算するのが原則です。
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3 学生(4を除く)
賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基準とするのが原則です。
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4 年少女子
全労働者(男女計)・学歴計・全年齢の平均賃金を基礎収入とします。
年少女子に中学生が含まれることは争いはありません。多数説は、高校生まで含まれるとしています。
ちなみに、従前、女性労働者の平均賃金を基礎収入としていました。しかし、女性の社会進出を考慮していない(男女の賃金格差は縮まってきている)、年少女子にも多様性な就労可能性の道が開かれているといった批判がありました。
そこで、年少女子は、女性労働者の平均賃金ではなく、全労働者(男女計)・学歴計・全年齢の平均賃金を基礎収入とすることになりました。
5 年金受給者
まず、老齢・退職年金は、拠出された保険料と対価関係があるため、逸失利益性が認められます。
また、障害年金は、拠出された保険料と対価関係があるため、逸失利益性が認められます。
ただし、加給分は逸失利益性が認められていません。というのも、加給分は拠出された保険料と対価関係が認められず、社会保障的性格の強い給付であるためです。
さらに、遺族年金は、逸失利益性が認められません。遺族年金は、受給権者自らが保険料を拠出しておらず遺族年金と保険料との間に対価関係がないこと、社会保障的性格の強い給付であることが理由とされています。
6 家事従事者
基礎収入は、原則として、事故発生時の賃金センサスの女性の学歴計・全年齢平均賃金の賃金額となります。
例外として、 高齢者の場合は、年齢別平均賃金が採用される傾向にあります。
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3 生活費控除率
1 はじめに
被害者が死亡した場合、生存していれば生じた経費が発生しなくなるので、逸失利益の算定にあたり生活費を控除することになります。
生活費控除率は、被害者の家族構成、属性、年齢などにより「類型的に」判断されることになります。類型的に判断されるということは、裏を返せば、裁判において、個々の事案に応じて被害者の生活費割合を具体的に主張立証することは予定されていないということです。
2 一家の支柱
一家の支柱とは、当該被害者の世帯が主として被害者の収入によって生計を維持している場合をいいます。
一家の支柱が亡くなった場合の生活費控除率は、残された被扶養者の生活保障の観点から、被扶養者の人数によって変わります。
・被扶養者が1人の場合 40%
・被扶養者2人以上の場合 30%
3 男性
50%になります。
男性が高率なのは、自身のために消費する割合が女性よりも高いためといわれています。
4 女性
30%になります。
女性が男性よりも低率なのは、一般的に女性は男性よりも平均収入が低いため、男性と同じ率で控除すると、男女格差が大きくなりすぎるので、公平の観点からこれを回避するためです。
5 年少女子
年少女子の基礎収入を男女計の平均賃金とした場合、男子の逸失利益を金額的に超えないようにバランスを取るため、45%となります。
6 年金受給者
50~60%になります。
年金は稼働収入ほど高額ではなく、稼働収入を得られなくなった者の生活費を確保する目的のものであるから、ほとんどが生活費に充てられることを前提にしているためです。
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4 中間利息控除
中間利息控除とは、逸失利益は被害者が毎年発生する損害を一括でもらうため、後からもらうはずの賠償金を銀行に預けるなど運用すれば利益(利息)を得ることになり、本来の賠償金以上の賠償を受けることになるので、一括金から運用利益分を調整(控除)することです。
この中間利息控除の計算方法はライプニッツ方式で計算することになります。
民法改正により、利息が年5%から年3%に変更となりました。逸失利益の計算においては被害者にとって有利な改正となります。