1 はじめに
相続法改正では、残された配偶者の生活を保障する制度を創設することが改正の柱の一つとされました。
具体的には、配偶者居住権、配偶者短期居住権、持戻し免除の意思表示の推定規定の創設になります。
以下では、持戻し免除の意思表示の推定規定について説明していきます。
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2 民法903条4項
1 条文
「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」
2 趣旨
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方配偶者に対し居住用建物を生前贈与又は遺贈した場合、贈与者又は遺贈者である配偶者としては、他方配偶者の長年の貢献に報い、老後の生活保障を手厚くするために生前贈与又は遺贈をしたと解するのが合理的です。
そこで、贈与者又は遺贈者である配偶者が、生前贈与又は遺贈について持戻し免除の意思表示をしたものと推定することにしました。
このような趣旨に基づき、民法903条4項が新設されることになりました。
以下では、民法903条4項の各文言について説明していきます。
3 「居住の用に供する」
民法903条4項によれば、贈与又は遺贈の対象となる建物又はその敷地は「居住の用に供する」といえることが必要となります。
そこで、対象物件が店舗兼住居の場合、「居住の用に供する」といえるかが問題となります。
この点については、①店舗部分と居住用部分が構造上一体となっており、②居住用部分が建物全体の50%を超えていれば、「居住の用に供する」建物に該当する場合が多いとされています。
したがって、①店舗部分と居住用部分が構造上分離されている場合、②居住部分の割合が建物全体の割合の50%未満の場合、「居住の用に供する」建物に該当しないことになります。
4 「遺贈又は贈与」
民法第903条第4項は、「・・・その遺贈又は贈与について」としています。では、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は「遺贈」に該当し、持戻し免除の意思表示の推定規定が直接適用されるでしょうか。
この点について、最高裁判例によれば、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は、特段の事情が無い限り、遺産分割方法の指定と解釈されています。したがって、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は、民法第903条第4項の「遺贈」に該当しないので、持戻し免除の意思表示の推定規定が直接適用されません。
もっとも、遺産分割方法の指定ついても残された他方配偶者の保護の趣旨が妥当するので、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は、遺産分割方法の指定と併せて相続分の指定がなされたものとし、残りの遺産分割では法定相続分で分割する取り扱いとするべきと解されています。
5 「推定する」
民法903条4項は、末尾で、「・・意思を表示したものと推定する。」としています。
このように「・・みなす」と定められていないので、持戻し免除の意思表示が存在することについて否定的な相続人は、持戻し免除の意思表示がなかったことを証拠に基づき主張することができます。
3 相続税法21条の6
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方配偶者に対し居住用建物を生前贈与又は遺贈した場合について、一定の要件の下、基礎控除(110万円)に加えて、最大2000万円の控除が認められています。
この規定も残された他方配偶者の保護の趣旨に基づき定められたものになります。
参考:相続税法21条の6第1項
「その年において贈与によりその者との婚姻期間が二十年以上である配偶者から専ら居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利若しくは家屋でこの法律の施行地にあるもの(以下この条において「居住用不動産」という。)又は金銭を取得した者(その年の前年以前のいずれかの年において贈与により当該配偶者から取得した財産に係る贈与税につきこの条の規定の適用を受けた者を除く。)が、当該取得の日の属する年の翌年三月十五日までに当該居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合又は同日までに当該金銭をもつて居住用不動産を取得して、これをその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合においては、その年分の贈与税については、課税価格から二千万円(当該贈与により取得した居住用不動産の価額に相当する金額と当該贈与により取得した金銭のうち居住用不動産の取得に充てられた部分の金額との合計額が二千万円に満たない場合には、当該合計額)を控除する。」
4 最後に
特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。
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