1 はじめに
破産者は、亡父名義の居宅について4分の1の共有持分権を有していました。もっとも、受任通知の5ヶ月前、破産者の実母が遺産分割協議により当該居宅を単独取得することになりました。そうすると、破産者が自身の4分の1の共有持分権を実母に無償で贈与したなどの理由により、破産管財人として否認権を行使するべきかが問題となります。
2 無償行為否認(破産法160条3項)
まず、本件遺産分割協議は「支払の停止等・・の前六月以内にした」ことになるので、無償行為否認の対象とはなります。
裁判例は、遺産分割協議が無償行為否認の対象となるかが問題となった事案において、無償行為否認の対象となる場合について「共同相続人が行う遺産分割協議において、相続人中のある者がその法定相続分又は具体的相続分を超える遺産を取得する合意をする行為を当然に贈与と同様の無償行為と評価することはできず、遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらないと解するのが相当である。・・・もっとも、遺産分割協議が、その基準について定める民法906条が掲げる事情とは無関係に行われ、遺産分割の形式はあっても、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときには、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る場合もないとはいえないと解される。」と一般論を述べ、特段の事情があれば無償行為否認の対象になる場合もあるとしました(東京高裁平成27年11月9日判決)。
この裁判例によれば、「遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情」の有無が問題となるところ、例えば、破産者を含めた相続人は、高齢であり本件居宅以外に生活拠点がない実母の住居を確保するため、実母が本件居宅を単独で取得する内容の遺産分割協議を行ったものといえる場合は、特段の事情は認められないと考えられます。
