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コラム:信販会社から所有権留保を理由に普通乗用自動車の引渡しを求められた場合

2024.07.13
1 はじめに

破産者(破産管財人)が信販会社から所有権留保特約条項を理由に普通乗用自動車の引き渡しを求められたとします。車検証上、所有者が信販会社となっていれば、信販会社の求めに応じなければなりません。これに対して、所有者が販売会社のままになっていた場合も応じなければいけないのでしょうか。

以下では、最判平成22年6月4日、最判平成29年12月7日を紹介します。

 

2 最判平成22年6月4日
1 事案

普通乗用自動車の売買に際し、販売会社、信販会社及び購入者の三者間で、購入者が販売会社から自動車を買い受けるとともに、その売買代金を自己に代わって販売会社に立替払いすることを信販会社に委託すること、当該自動車の所有権が購入者に対する債権の担保として留保されること、および販売会社に留保されている当該自動車の所有権が立替払いにより信販会社に移転することなどを内容とする契約を締結したという事案でした。

 

2 判旨

「前記事実関係によれば、本件三者契約は、販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく、被上告人が、本件立替金等債権を担保するために、販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当であり、被上告人が別除権として行使し得るのは、本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。すなわち、・・・被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。」

 

3 コメント

このような立替払い方式の場合、破産者は、信販会社からの引き揚げに応じる必要はありません。

そして、信販会社の取得する留保所有権の被担保債権(立替金等債権)が、販売会社の有していた留保所有権の被担保債権(売買代金債権)とは異なることから、信販会社が購入者との間で独自の留保所有権を設定したと評価すべきことを理由に、信販会社の留保所有権の取得につき、立替払の結果、販売会社が留保していた所有権が代位により信販会社に移転するという構成を否定し、信販会社が独自の留保所有権を行使するためには、信販会社の登録所有名義が必要であると判断したものといわれています(最判平成29年12月7日の一審判決参照)。

 

3 最判平成29年12月7日
1 事案

信販会社が、購入者からの集金業務を受託し、かつ、購入者の代金支払債務につき保証するという方式でした。

 

2 判旨

「自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続が開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。その理由は、以下のとおりである。
保証人は、主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており、代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために、弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し、求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条、501条)。そして、購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については、所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから、留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって、破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると、保証人は、自動車につき保証人を所有者とする登録なくして、販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。」

「・・所論引用の判例(最高裁平成21年(受)第284号同22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)は、販売会社、信販会社及び購入者の三者間において、販売会社に売買代金残額の立替払をした信販会社が、販売会社に留保された自動車の所有権について、売買代金残額相当の立替金債権に加えて手数料債権を担保するため、販売会社から代位によらずに移転を受け、これを留保する旨の合意がされたと解される場合に関するものであって、事案を異にし、本件に適切でない。」

 

3 コメント

このような保証委託方式の場合、破産者は、信販会社からの引き揚げに応じる必要があります。

そして、本事案は、最判平成22年と異なり、信販会社が購入者に対する独自の債権を取得することはないので、販売会社の留保所有権の被担保債権と信販会社の留保所有権の被担保債権の内容は同一となる事案でした(一審判決参照)。

 

4 最後に

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