1 はじめに
破産債権者が申立代理人と破産管財人に対して破産債権者一覧表の不備を理由に損害賠償を求めた事例として、金沢地判平成30年9月13日を紹介します。
2 事案
破産会社は、平成26年9月10日、支払不能に陥り、同日頃、本件申立代理人らに同社の破産手続開始の申立てを委任した。
平成26年9月16日頃、本件申立代理人らは、原告を含む債権者に対し、「受任通知及び債権調査へのご協力のお願い」と題する書面及び債権調査票のひな型を送付した。
平成26年10月21日、破産会社は、破産手続開始決定を受けた。本件開始決定の際、破産債権の届出期間及び債権調査期日は定められなかった(破産法31条2項)。
本件申立代理人らが破産裁判所に提出した本件破産事件に係る債権者一覧表(以下「本件債権者一覧表」という。)には、原告の記載は一切なかった(破産法20条2項)。そのため、本件破産事件については、公告はされたものの(破産法32条1項)、原告に対しては、破産会社について破産手続開始決定がされた事実等の通知(破産法32条3項)はなされなかった。
平成27年6月26日、破産裁判所は、本件破産事件について、破産債権届出期間を同年7月27日までと定めるとともに、債権調査期日を同年9月30日午後2時と定めた(破産法31条3項)。その頃、その旨知れている破産債権者(ただし、原告は含まれていない。)に通知するとともに公告した(同条4項本文参照)。
平成27年7月27日、この日までに多数の債権者からの破産債権の届出があった。
平成27年9月30日、債権調査期日における管財人の認否を経て破産債権が確定したところ(破産法124条1項)、配当の手続に参加することができる確定破産債権の内訳及び金額は、一般破産債権が9億9852万4923円であった。他方、配当することができる金額は1億1173万3756円であった。
平成27年10月27日、破産管財人は、本件破産事件につき簡易配当をすることについて破産裁判所の許可を得て(破産法204条1項)、同年11月2日付けで、債権届出のあった破産債権者に対し、上記金額を前提として簡易配当をする旨通知し(破産法204条2項)、同月24日、簡易配当を実施した。
なお、原告は、本件破産事件において、上記配当に係る除斥期間(破産法205条、198条。以下「本件除斥期間」という。)満了に至るまで、本件債権につき債権届出をしなかった。
平成27年12月9日、破産裁判所は、本件破産事件につき、破産手続終結決定をした。
本件破産事件において本件債権(1043万0663円)が一般破産債権として確定していた場合には、原告は、本件破産事件において、115万5101円の配当を受けることができた。そこで、原告は、申立代理人と破産管財人に対して上記金額の損害賠償を求めて訴訟提起した。
3 判旨①(申立代理人の責任)
【一般論】「・・・本件においては、以下の理由から、被告乙山らは、原告に対する不法行為責任を負うものであるといえる。
すなわち、前記のとおり、本件申立代理人らは、原告を含む破産会社の債権者に対し、平成26年9月16日付けで破産会社から委任を受けた弁護士として本件受任通知書を送付しているところ、同受任通知書には、破産会社が同月10日に支払不能に陥り、今後破産手続開始申立てを行う予定であることが記載されているというのであるから、同受任通知書の送付を受けた債権者としては、これにより破産者に対するその債権の行使が法的に制限されるものではないとしても、その記載内容からして、事実上その回収が極めて困難であることが容易に想定できる上、本件受任通知書を受領している以上、それ以後の破産者の支払不能及び支払停止についての悪意を争うことは困難であり、仮に債権を回収しても、後の破産手続においてこれが否認される可能性があること(破産法162条1項1号イ、165条参照)からすれば、破産者に対する債権の個別行使を自制することも無理からぬところであって、また、本件申立代理人ら自身、そうした効果をも期待して本件受任通知書を送付しているものと考えられる。さらに、本件受任通知書には、「貴社(貴殿)」が破産会社に金銭債権を有していると思われる旨記載されており、その送付を受けた債権者としては、自らの債権について破産会社に把握されているものと考えるのが当然である。加えて、破産手続開始申立てについては、その代理人は原則として弁護士に限られ(破産法13条、民訴法54条1項本文)、弁護士は、法律の専門家として、誠実にその職務を行うものとされているところ(弁護士法1条2項、2条参照)、本件受任通知書上も、本件申立代理人らが弁護士である旨明記されているのであり、これらの諸事情を総合すると、本件受任通知書の送付は、原告を含む破産会社の債権者に対し、自らが、これに引き続く破産手続において、破産債権者としてその手続に関与する機会を与えられ、破産債権者として公平に処遇されることについての信頼を生じさせるとともに、その債権の個別行使を自制させる効果を有するものということができる。
以上説示したところに加え、破産法20条2項が債権者一覧表の提出を求める趣旨は、破産裁判所における破産手続開始原因の有無や破産手続の進行についての判断に資するためのみならず、破産手続開始決定がされた場合に、破産債権者に対する通知(同法32条3項)を適切かつ迅速に行い、破産債権者に、破産手続に参加する機会を確保し、ひいては債権者の公平な満足を担保する点にもあると解されること、他方、後記のとおり、管財人は、破産債権者の積極的な探索義務までをも負うものではないと解されることをも考慮すると、本件破産事件における破産会社の代理人弁護士であり、その旨表示して本件受任通知書を送付した被告乙山らにおいては、破産会社に対し委任契約上の善管注意義務を負うのみならず、少なくとも、原告を含む本件受任通知書を送付した個別の債権者との関係においても、信義則上(破産法13条、民訴法2条)、本件申立てに当たり(ただし、破産法20条2項ただし書の場合にあっては、同申立て後遅滞なく)、当該債権者が破産会社に債権を有しないことが明らかである場合など、これを債権者一覧表に記載しないことについての正当な理由がある場合を除き、当該債権者を債権者として記載した債権者一覧表を破産裁判所に提出する義務を負っていたものというべきである・・・。また、破産債権者は、破産手続開始決定後、一般調査期間又は一般調査期日の経過後であっても、債権の届出をすることができる場合があるところ(破産法112条1項)、破産手続開始申立代理人は、破産手続開始決定後も当該破産事件に係る説明義務を負うものとされており(破産法40条1項2号)、・・・被告乙山らは、本件開始決定後であっても、本件受任通知書を送付した債権者の中に、前記のような正当な理由なく本件破産手続上破産債権者として処遇されていない者がいる場合には、信義則上、当該債権者の存在が判明したことを破産裁判所に上申し、同債権者を追加した債権者一覧表を同裁判所に提出するなどすべき注意義務を負っていたものというべきである。」
【あてはめ】「ところが、被告乙山らは、前示のとおり、住所が不明であり、本件破産手続開始の申立てに先立ち債権調査票を送付していないものと推認される債権者を本件債権者一覧表に記載しておきながら、原告については、本件申立てに先立ち本件受任通知書を送付するなどその本店所在地を把握していたにもかかわらず、本件申立てに当たり破産裁判所に提出した本件債権者一覧表には原告を債権者として記載していなかったのである。そして、前記認定事実によれば、被告丙川は、本件申立時の破産者の代表者である辛木から受領した破産会社の債権者のリストに基づき本件受任通知書を送付したものであり、原告が破産会社に本件債権を有しないことが明らかであるなど、原告を債権者一覧表に記載しないことについての正当な理由があるとは認められない。また、被告乙山らは、前記のとおり、本件受任通知書を送付した原告が本件債権者一覧表に記載されていなかったにもかかわらず、本件開始決定後も、新たな破産債権者が判明した旨破産裁判所に上申するなどしていないというのであるから、被告乙山らは、原告に対する信義則上の前記注意義務を尽くさなかったものというほかなく、このことは、原告に対する共同不法行為を構成するといえる。」
4 判旨②(破産管財人の責任)
【原則】「・・・破産手続開始決定があった場合や、その後に債権届出期間等が決定された場合には、破産裁判所が、これらを官報に掲載して公告するとともに、知れている債権者にこれを個別に通知するものとされており(同法32条1項、3項1号、4項、10条)、同通知等については、管財人の職務とはされていない。なお、破産裁判所は、破産管財人の同意を得て、上記知れている債権者への通知に係る事務を管財人に取り扱わせることもできるが(規則7条)、この場合であっても、管財人が取り扱うのはあくまで通知に関する補助的な事務にすぎず、これによって、その法的責任の所在が変更されるものではない。また、破産法上、管財人は、債権届出のあった破産債権に限り、破産債権の額等について認否すべきものとされ(破産法117条1項、119条4項、121条1項、122条2項)、届出のない破産債権についての認否及びその前提としての調査を義務付ける規定は存しない。このような破産法における規定内容に加え、破産債権の存否及び内容についてこれを最もよく知る者は破産者自身であるところ、前示のとおり、破産者は、自らについて破産手続開始の申立てをする場合には、所定の事項を記載した債権者一覧表を破産裁判所に提出しなければならないものとされ、また、管財人も破産者に説明を求めることができるとされており(破産法83条1項、40条1項1号)、さらに、前記のとおり、大阪地方裁判所においては、破産手続開始申立後に新たな債権者が判明した場合には、申立代理人がその旨を破産裁判所及び破産管財人に報告するものとされているというのであって、このような破産法の規定や運用の下においては、管財人は、破産債権者の調査については、原則として、破産者(及びその代理人)に委ねれば足りるというべきであり、管財人は、これを超えて、自ら積極的に各種資料を精査するなどして「知れていない破産債権者」を探索すべき法的義務を負うものではないというべきである。
以上によれば、管財人は、原告の主張するような、債権者一覧表から記載漏れのある債権者の有無に注意して関係資料を精査し、記載漏れのある債権者があればその旨破産裁判所に報告して、破産債権者が破産手続に参加できるよう配慮すべき注意義務を負うものとは認められない。」
【例外】「もっとも、・・・管財人は、自ら積極的に判明していない債権者を探索すべき法的義務を負うものではないとしても、・・・破産手続は総債権者の公平な満足を目的とするものであり、管財人は同目的を実現するために善管注意義務を負っているものであるから、その職務を遂行する過程において、新たな債権者の存在を覚知した場合には、これを破産者(又はその代理人)からの報告によって判明した場合と区別すべき理由はなく、同債権者についても、これを他の債権者と公平に処遇すべく、その時点における破産手続の進捗に応じて可能な範囲で、同債権者が他の債権者と同様に同破産手続に関与することができるよう配慮すべき注意義務を負うものというべきであ」る。
「そうであるとすれば、管財人において、未判明の債権者を探索するために積極的に資料等を精査する義務を負うものではないとしても、管財人として一般的に要求される平均的な注意義務を尽くしてその職務を遂行すれば、その過程において容易に新たな債権者の存在が判明するような場合については、管財人は、当該債権の有無及び金額等について破産者(及びその代理人)に説明を求めるなど所要の調査を尽くした上で、当該債権者につき前記のような配慮をすべき注意義務を負うと解する余地があり、管財人が前記のような平均的な注意義務を尽くして職務を遂行せず、又は上記のような配慮をすべき注意義務を尽くさなかったために、当該破産者が事実上当該破産手続に関与できずに損害を被った場合には、管財人においてなお善管注意義務違反に基づく当該債権者に対する損害賠償義務を負う余地がないとはいえないというべきである。」
5 最後に
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