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コラム:破産管財人の調査に協力した事情があっても免責不許可となった裁判例

2024.08.07
1 はじめに

免責不許可事由が認められる破産者が裁量免責を受けるためには破産手続開始決定後に破産管財人に誠実に協力することが必要であり、多くの事案ではそのことが考慮されて最終的に免責が認められています。もっとも、免責不許可事由の程度によっては破産管財手続に協力していたとしても免責されない場合があります。以下では東京高決平成26年3月5日を紹介します。

 

2 事案
1 健康医学社の破産手続

健康医学社は、健康機器及び黒酢の製造販売等を業とする会社である。

健康医学社は、平成22年ころまでに、資金調達するため、主に顧客会員に対し、鉱泉権や温泉権(以下「鉱泉権等」という。)を有することを標榜してこれを担保にした資金拠出を求め、数百名の顧客会員(以下「出資者」という。)から数十億円を借り入れた。

健康医学社は、平成23年3月23日以降、支払不能の状態になり、出資者の申立てにより不動産仮差押決定を受けるなどした。

健康医学社は、平成24年1月31日から同年7月10日までの間、その関連会社である健総研に対する貸金債務について、所有する不動産に根抵当権を設定し、その所有する動産を代物弁済に供し、また、健総研に譲渡してその譲渡代金債権との間で相殺し、健総研に対して健康医学社が有する特許権の専用実施権を設定してその対価に係る債権との間で相殺するなどした。この本件資産移転行為は、代表者が依頼した整理屋グループの指示により行われた。

出資者の一部は、平成24年8月7日、健康医学社について破産手続開始の申立てを行った。その後、同年10月17日午後5時、破産手続開始された。

破産管財人は、本件資産移転行為について否認請求の申立てを行い、認容決定に基づき破産財団を回復させ、事業譲渡により約6億円の破産財団を形成した。その際、破産者は破産財団の回復に協力した。もっとも、財団債権の弁済および優先的破産債権の一部への最後配当が行われたが、届出額合計約77億円の一般破産債権に対する配当は行われなかった。

 

2 代表者の破産手続

代表者(昭和23年7月生まれ)は、平成25年6月17日、破産手続開始及び免責許可の申立てをし、同月26日午後5時に破産手続開始の決定を受けた。

申立時の負債額は、株式会社日本政策金融公庫ほか132名の債権者に対する負債(公租公課を含む。)が合計11億6218万9022円にのぼった。他方、開始決定時の資産は、自宅土地建物、土地、健康医学社及びその関連会社の株式、健康医学社に対する約2712万円の貸金債権があった。代表者は、申立当時、月額約13万円の年金収入のみだった。

代表者は、出資者からの借入れの募集行為が出資法に違反するとして公訴提起され、平成25年11月5日、懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受けた。

代表者は、破産管財人の調査に協力し、破産管財人による破産財団を構成する財産の換価、回収が行われた。しかし、約43万円の破産財団が形成されるにとどまった。

代表者は、平成26年1月20日、破産手続廃止の決定がされた。そして、同月27日、裁量免責決定(破産法252条2項)がなされた。

 

3 判旨
1 権利免責(破産法252条1項1号該当性)について

「・・本件資産移転行為は、健康医学社の財産を不当に減少させる行為であるが、それによる財産の減少自体を相手方の固有財産の減少とみることはできない。しかし、本件資産移転行為は、相手方の固有財産との関係でも、相手方が有する健康医学社に対する貸金債権や健康医学社の株式の価値を損なわせるものであり、その結果、相手方の破産手続において破産財団を構成することになる財産を減少させたものと解される。したがって、本件資産移転行為は、相手方についても、同号所定の免責不許可事由に該当する行為であると認められる。」

 

2 裁量免責(破産法252条2項)について

裁判所は、裁量免責が認められるための考慮要素を示したうえで、本件資産移転行為の性質、破産に至った経緯、破産手続開始決定後の事情を総合考慮し、裁量免責は認められないと判断しました。

まず、・・免責不許可事由である本件資産移転行為についてみるに、・・・健康医学社は、本件資産移転行為の当時、出資者らに対して数十億円を超える債務を負い、支払不能の状態にあったこと、健康医学社の破産事件において、その破産管財人が否認請求等の所要の手続をとって本件資産移転行為の対象となった財産を回復させるなどしたが、一般破産債権者に対する配当には至っていないのであり、相手方が有していた健康医学社に対する貸金債権の回収見込みや健康医学社の株式の資産価値は、本件資産移転行為当時には既に低いものであったと推認され、本件資産移転行為に係る相手方の破産財団の価値減少の程度も、必ずしも大きなものとはいえないということができる。しかしながら、それは結果にすぎず、相手方の本件資産移転行為は、いわゆる整理屋グループを使って行ったものであり、その動機の悪質性及び破産債権者や破産手続に対する不誠実性が大きいことは多言を要しないところである。

次に、破産原因が生じるに至った経緯についてみるに、相手方が、健康医学社の代表者として、出資法に違反する出資募集行為を行い、資産価値のない鉱泉権等を担保にするなどと標榜して、健康医学社を借主とする出資者からの多額の借入れをしたことがその原因であり、その悪質さには顕著なものがある。もっとも、相手方が出資者への借入募集に関して有罪判決を受け、刑事上の責任をとっていることは、相応の考慮が払われるべきである。

さらに、破産手続開始の決定後の事情についてみるに、相手方は、事後的とはいえ、破産管財人の調査に協力し、相手方の財産は、破産管財人により破産手続に則って処理されているが、この点は、相手方の不誠実性を減殺するものであるといえる。相手方の破産管財人は、この点にかんがみて、「当職としては、かろうじて裁量免責を認めることが相当」という意見を述べている。確かに、相手方の協力がなければ、破産管財人による本件移転行為に対する否認請求及びそれによる財産状態の回復等はより困難であったと認められるから、その限りで破産管財人の上記意見は首肯できる面がある。しかしながら、そもそも相手方が整理屋グループを使って本件資産移転行為をしたことを考慮すると、破産手続における相手方の協力に対する評価にも、自ずと限度があるというべきである

以上の考慮要素を総合的に斟酌すると、相手方については、破産免責によりその経済的更生を図ることは、社会公共的見地から相当と評価することはできないと解される。すなわち、相手方の破産における不誠実性は、重大であり宥恕することは困難であるというべきであるから、破産法252条2項により免責を許可することは、相当とはいえない。

 

4 最後に

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