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コラム:控訴の利益が問題となった最高裁判例

2024.08.05
1 はじめに

事件が一人の裁判官により審理された後、別の裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合において、全部勝訴した原告が控訴をすることができるかが問題となった最判令和5年3月24日を紹介します。

 

2 最判令和5年3月24日
1 事案の概要

上告人は、被上告人に対し、遺留分減殺を原因とする不動産の所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。

被上告人は、適式な呼出しを受けたにもかかわらず、第1審の第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。本件は、第1審においてA裁判官によって審理されていたところ、同裁判官は、上記期日において口論弁論を終結し、判決言渡期日を指定した。

上記の指定に係る判決言渡期日において、上記口頭弁論に関与していないB裁判官が、民訴法254条1項により、判決書の原本に基づかないで上告人の請求を全部認容する第1審判決(以下「本件第1審判決」という。)を言い渡した。

上告人は、本件第1審判決を取り消し、改めて上告人の請求を全部認容する旨の判決を求めて控訴をした。

もっとも、原審は、控訴の利益は認められないので本件控訴は不適法であるとして、これを却下した。

 

2 問題の所在

控訴が適法であるためには控訴人に控訴の利益があることが必要と解されています。そして、控訴の利益は、第1審における請求の趣旨と判決主文とを比較し、後者が前者に満たない場合に限り認められるとされています(形式的不服説)。控訴人は、請求の趣旨のとおりの請求認容判決の言渡しを受けており、判決主文が請求の趣旨に満たないとはいえないので、控訴の利益はないことになります。

他方で、原判決は、口頭弁論に関与しない裁判官が言い渡したものであり、再審事由(同法338条1項2号)に該当する手続上の瑕疵があります。そうすると、将来、再審の訴えを提起されることにより、確定した請求認容判決が覆る可能性があるので、控訴人には、控訴審において手続上の瑕疵のない請求認容判決を受ける利益があると考えることもできます。

 

3 判旨

裁判所は、以下のとおり本件事実関係のもとでは控訴の利益が認められると判断しました。

「第1審において、事件が一人の裁判官により審理された後、判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が民訴法254条1項により判決書の原本に基づかないで第1審判決を言い渡した場合、その判決手続は同法249条1項に違反するものであり、同判決には民事訴訟の根幹に関わる重大な違法があるというべきである。また、上記の違反は、訴訟記録により直ちに判明する事柄であり、同法338条1項1号に掲げる再審事由に該当するものであるから、上記の第1審判決によって紛争が最終的に解決されるということもできない。
したがって、上記の場合、全部勝訴した原告であっても、第1審判決に対して控訴をすることができると解するのが相当である。
そして、前記1の経過によれば、上告人は、本件第1審判決に対して控訴をすることができる。」

 

3 最後に

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