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コラム:破産者が財産を隠匿等したことにつき免責不許可となった裁判例

2024.07.31
1 はじめに

破産管財人の調査により未申告の財産が多数発見された上、引渡命令がなされた後も自宅から退去しなかったなど管財業務の妨害行為などが行われた事案について、免責不許可事由の該当性、裁量免責の可否が問題となった東京地判平成24年8月8日を紹介します。

 

2 事案の概要
1 破産手続の経過

破産者は、平成20年9月12日、破産手続開始を申し立てた。申立書によれば、債権者数は16名、負債総額は8億9064万4608円であった。

破産者および破産者が代表を務めていた株式会社は、同年9月19日、破産手続開始決定を受けた。

上記株式会社の破産事件は、平成22年2月17日に廃止決定がなされた。一方、破産者の破産手続については、平成24年7月11日に廃止決定がなされた。

 

2 破産管財人による財産調査の結果

破産者は、南彩農業協同組合に対し、普通預金約225万円、満期共済金約100円、出資金約77万円を有していた。これらは、申立書の財産目録に記載はなく、破産手続開始決定後に上記預金に対する滞納処分による差押通知を受けたことにより判明したものであった。破産管財人が南彩農業協同組合に連絡をとった時点において、破産者は上記について解約・払戻手続中であった。

破産者は、さいたま市所在の賃貸アパートを所有していた。これは財産目録に記載はあったが、賃貸料の振込口座である埼玉りそな銀行の普通預金口座は記載していなかった。これは破産手続開始後に破産管財人の調査によりその存在が発覚した。

破産者は、さいたま市所在の駐車場土地を所有していた。これは財産目録に記載があったが、その駐車場使用料収入があることは破産管財人に告げていなかった。

破産者は、さいたま市所在の土地を所有していた。同土地は資材置場として賃貸されていた。破産者はその賃借料収入があることを申立書に記載していなかった。

破産者は、群馬県所在の土地を所有していた。破産者は、同土地につき、本件破産申立日の前日に売買を原因とする所有権移転登記手続を行っていた。しかし、その旨は申立書に記載さしていなかった。これは、破産手続開始決定後、滞納固定資産税の交付要求が破産管財人になされたことにより発覚したものである。

 

3 管財人の換価業務遂行の妨害

以下、主要な行為を列挙します。

破産者は、その所有する自宅土地建物につき退去するよう破産管財人から要請され、引渡命令まで受けながら任意の明渡しを拒絶した(破産法156条)。破産管財人が、上記引渡命令に基づき明渡しの強制執行を申立てたところ、ようやく破産者はその明渡しに応じた。

破産者は、上記自宅敷地上の未登記建物につき、破産手続開始決定後に保存登記した上で第三者に移転登記し、自宅退去後に転居した。破産管財人は、その第三者に対して訴訟提起し、和解により上記移転登記は抹消された。その上で、破産管財人は、破産者に対して、上記建物の引渡命令を得(破産法156条)、明渡しの強制執行を申立てたところ、破産者はようやく同建物から退去した。

 

3 判旨
1 破産法252条1項1号の免責不許可事由

破産者が債権者を害する目的でした破産財団に属し又は属すベき財産の隠匿等破産財団の価値を不当に減少させる行為であることは明らかであり、破産者には、破産法二五二条一項一号の免責不許可事由がある。
破産者は、上記各財産が父から相続した財産であるからその存在を認識していなかったとか、破産者自身が稼働して得た財産や収入ではないから申告する必要はないと誤信したなどと主張するが、破産手続開始決定前後にその換価等の行為に及び、又は及ぼうとしている事実などからすれば、破産者が本来破産財団に帰属すべき財産であることを認識しながら、その隠匿等を図ったことは明らかであり、破産者の主張には理由がない。

 

2 破産法252条1項9号の免責不許可事由

不正の手段により破産管財人の職務を妨害する行為であることも明らかであり、破産者には、破産法二五二条一項九号の免責不許可事由がある。
破産者は、自宅で暮らしていた高齢の母を説得できなかったとか、即時転居の可能性がなかったなどと述べるが、かかる事情が引渡命令を発せられても明渡しを拒むことを正当化する事由となり得ないことはいうまでもない。

 

3 裁量免責の可否

破産管財人の意見は免責不相当というものである。そして、①破産者の前記隠匿等及び妨害行為に対して、破産管財人が訴訟や引渡命令等の法的手段に訴えることを余儀なくされ、そのことも原因となって、破産手続開始から廃止決定まで四年弱もの期間を要するに至っていること、②届出破産債権総額は一〇億七四八二万八二八八円と巨額であり、にもかかわらず、破産債権者への配当はなされていないことなどからしても、免責不許可事由の態様は極めて悪質である。破産者の隠匿行為や妨害行為があったにもかかわらず、破産管財人の尽力により、相当額の財団形成が図られているが、破産者は発覚後も財団回復に協力するどころかこれを妨害までしているのであって、結果的な財団形成の事実により破産者の隠匿や妨害行為の悪質性が減ぜられることとはならない。
破産者は、前記免責不許可事由に該当する各行為は、自らが経営する会社の破綻等によって追い込まれ窮状にある破産者が、第三者の助言に従ってその違法性につき確信を抱くことなく及んだものである旨主張するが、前述した行為自体の悪質性に鑑みるならば、仮にそのような事情があったとしても、裁量により免責を許可するのが相当とは認められない。

 

4 最後に

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