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コラム:信販会社から所有権留保条項を理由に軽自動車の引き揚げを求められた場合

2024.07.29
1 はじめに

破産者が軽自動車をクレジット契約で締結したものの支払いを停止した場合、破産管財人はクレジット会社の引き揚げ要請に応じる必要があるかが問題となるケースがあります。

この問題は、所有権留保を第三者に対抗することができるかという問題になります。軽自動車の場合は引渡しをもって対抗要件具備があったとされ、この引渡しには占有改定による引き渡しを含むとされています。所有権留保条項の中に占有改定条項が明記されていればなんら問題ありませんが、明記されていなかった場合に占有改定がないとされるのかが問題となります。

以下では、まさにこの点が正面から争われた名古屋地判平成27年2月17日を紹介していきます。

 

2 事案の概要

破産会社は、平成25年5月17日、販売会社との間で本件自動車を割賦購入する旨のクレジット契約を締結した。

破産会社は、平成25年10月30日、経営不振のため事業を停止し、支払不能となり、破産会社の代理人弁護士から各債権者に対し、自己破産申立ての受任通知が発送された。

破産会社は、平成25年12月3日、クレジット会社に対し、本件自動車を引き渡した(本件引渡行為)。なお、本件契約条項には占有改定についての明示の定めはなかった。

破産会社は、平成25年12月24日、破産手続開始決定を受けた。

クレジット会社は、平成26年1月6日、本件自動車を売却代金100万6700円で売却し、割賦金合計の残額91万2800円と査定費用7350円(合計92万0150円)の弁済に充当した(本件充当行為)。

クレジット会社は、平成26年6月6日、破産管財人に対し、本件充当行為の余剰金100万6700円から上記92万0150円を控除した残額(8万6550円)を返還した。

破産管財人は、本件引渡行為及び本件充当行為は偏頗弁済行為に該当するとして、破産法162条1項1号に基づき否認し、被告に対し、本件充当行為に基づくクレジット会社の受領額(92万0150円)について価額償還請求を行った。

 

3 判旨

裁判所は、契約条項の中に占有改定条項が明確に入ってなかったしても、その他の条項の内容を総合考慮して、占有改定が認められると判断しました。

「・・当事者間の契約における合意内容の確定については、契約書上の各文言を当該契約時の事情のもとで当事者が達成しようとしたと考えられる経済的・社会的目的と適合するように解釈して行うべきであり、占有改定の合意があったか否かについても、単に契約書の条項にその旨の明示の規定が定められていたか否かではなく、当該契約書の条項全体及び当該契約を行った当時の状況等を当事者の達成しようとする目的に照らして、総合的に考察して判断すべきものというべきである」

「・・本件契約条項では、(ア) 契約の効力発生と同時に本件自動車の所有権はファイナンス会社である被告に移転すること(割賦販売契約・保証委託契約共通条項第1条(2))、(イ) 買主(破産会社)は、被告が本件自動車の所有権を留保している間は、本件自動車の使用・保管につき、善管注意義務を負い、被告の承諾ない限り、転売、貸与、入質等の担保供与、改造、毀損等が一切禁止されること(同条項第2条(1))、(ウ) 買主(破産会社)は、割賦払金の支払を怠っているときは、被告からの催告がなくても、直ちに本件自動車の保管場所を明らかにするとともに本件自動車を被告に引き渡すものとされていること(同条項第4条(1))等が定められており、買主(破産会社)は当該各条項を了解して、本件自動車を割賦購入したものと認められることに照らせば、買主(破産会社)の占有は、本件契約の効力発生時点において当然に他主占有(所有する意思をもたずに行う占有)となる上、所有権者である被告のために善管注意義務をもって本件自動車を占有し、転売や貸与、改造等も禁止されるなど、明らかに占有改定による占有の発生を基礎付ける外形的事実が存在しているというべきである
したがって、本件契約後の買主(破産会社)による占有は占有改定による占有であると認められる。」

 

4 最後に

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