1 はじめに
破産者が危機的状況のもとで行った法定相続分を大幅に下回る遺産分割協議が無償行為に該当し否認されるかが問題となった東京高判平成27年11月9日を紹介します。
2 事案
相続人は、長男と次男(破産者)でした。遺産の価額は2億3710万2600円である。
本件遺産中の本件土地63筆のほとんどは亡父が先代から相続により取得したものである。遺産分割協議では、破産者が土地(2598万4860円)とCの株式2500株を取得し、長男が残りの遺産すべてを取得するものと合意された。
遺産分割による各自の取得額は破産者が2598万4860円、長男が2億1111万7740円であった。
3 判旨
裁判所は、遺産分割協議は原則として無償行為に該当しないが、特段の事情がある場合は例外的に無償行為に該当すると一般論を述べた上で、特段の事情はないとし無償行為に該当しないと判断しました。以下では一般論の一部を引用します。
「・・・贈与や債務免除のような、経済的な対価を伴わない限り、破産者の財産を減少させる行為と評価するほかない行為は、破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であって、類型的に「無償行為」として破産法160条3項が軽減された要件で否認を認める上記の根拠が妥当するのに対し、遺産分割協議については、経済的な対価がないということから、無償行為否認について軽減された要件で否認を認めることについての上記の破産法上の根拠がそのまま妥当するとはいえない。
また、遺産分割協議は、相続人である破産者の財産を形成していたものが無償で贈与された場合と異なり、元々破産者の財産でなかったものが、遺産分割の結果によって相続時にさかのぼってその効力を生じ、破産者の財産とならなかったことに帰着するものであるから(民法909条)、この点からみても、破産法160条3項所定の無償行為として、類型的に対価関係なしに財産を減少させる行為と解するのは相当ではないというべきである。」
「相続においては共同相続人が、民法907条1項に基づいて全員の合意で遺産を法定相続分ないし具体的相続分と異なる割合で分割することが妨げられないものである。加えて、破産債権者は、元来、破産者の財産を引き当てにしていたので、破産者の被相続人の財産に対する破産債権者の期待を特に強く保護する必要はないから、遺産分割協議が破産債権者を害する程度(有害性)が大きいとは当然にはいえないというべきである。」
「以上のとおり、共同相続人が行う遺産分割協議において、相続人中のある者がその法定相続分又は具体的相続分を超える遺産を取得する合意をする行為を当然に贈与と同様の無償行為と評価することはできず、遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらないと解するのが相当である。
もっとも、遺産分割協議が、その基準について定める民法906条が掲げる事情とは無関係に行われ、遺産分割の形式はあっても、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときには、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る場合もないとはいえないと解される。」
4 最後に
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