1 はじめに
破産申立ての受任通知後も、借入先である勤務先から給料天引きが行われていたとします。この場合、破産手続開始後、破産管財人は、否認権を行使することが考えられます(破産法162条1項1号イ)。以下では、この点が問題となった最高裁判例を紹介します。
2 最判平成2年7月19日
1 事案
A(破産者)は、文部省職員として大阪教育大学に勤務していた。Aは、在職中、被上告人(大阪教育大学支部長)から借入れをしていた。退職時点での未返済の貸付金債務(本件債務)は合計510万円ほどであった。
Aは、昭和61年3月29日、自己破産の申立てを行った。
Aは、昭和61年3月31日、大阪教育大学を退職した。その際、Aは、被上告人(大阪教育大学支部長)に対し、退職手当から本件債務を優先弁済することを約する旨の確約書を提出した。また、大阪教育大学支出官に対しても、退職手当から本件債務を被上告人(大阪教育大学支部長)に支払うことを依頼する旨の控除依頼書を提出した。
Aに対する給与支給機関である大阪教育大学支出官は、同年4月1日、Aの退職手当を支給するに当たり、国家公務員等共済組合法(以下「国公共済法」という。)101条2項に基づき、本件債務をAに代わって被上告人(大阪教育大学支部長)に払い込んだ(以下「本件払込」という。)。
裁判所は、同月15日、Aに対し破産手続を開始し、上告人が破産管財人に選任された。上告人は本件払込について否認権を行使したが、一審、二審いずれも否認権の行使を認めなかった。
2 判旨
「国家公務員等共済組合の組合員(組合員であった者を含む。以下同じ。)の給与支給機関が、報酬その他の給与(国家公務員退職手当法(昭和二八年法律第一八二号)に基づく退職手当又はこれに相当する手当を含む。)を支給する際、国公共済法一〇一条二項に基づき、組合員の報酬その他の給与からその未返済の貸付金の金額に相当する金額を控除して、これを組合員に代わって組合に払い込む行為は、その組合員が破産宣告を受けた場合、破産法七二条二号の否認の対象となると解するのが相当である。けだし、国公共済法一〇一条二項の規定は、・・・同条項は、給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行することを規定したものにほかならず、組合において、破産手続上、他の一般破産債権に優先して組合員に対する貸付金債権の弁済を受け得ることを規定したものと解することができないからである。」
3 最後に
以上、給料の天引と否認について説明しました。破産について一般的な説明については下記の関連記事をご確認ください。
【関連記事】
✔破産手続一般についての解説記事はこちら▶自己破産