相続人の1人に対して、相続財産を全部相続させる旨の遺言がされた場合、その特定の相続人は、相続債務も承継しなければならないのでしょうか。
1 相続と債務
前提として、最高裁は、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するとしています(最高裁判所昭和34年6月19日判決)。
2 特定の相続人に相続債務を相続させる遺言の効力
最高裁判所平成21年3月24日判決は、以下のように判示し、相続人は、他の相続人との関係では、当該相続人が相続債務も承継しますが、債権者との関係では各相続人が、法定相続分に従って債務を負うことを明らかにしました。その理由は、債権者としては、上記1のとおり、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するという前提からすると、債権者は、相続債務が各相続人に相続分に応じて相続されるという期待を抱いているのであり、これを、被相続人が一方的に変更することは債権者の利益を害するためです。
「本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」