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コラム:押印を欠く自筆証書遺言を無効とした裁判例

2024.05.19
1 はじめに

自筆証書遺言が「押印」の要件を欠き無効とされた東京地判平成25年10月24日を紹介します。

 

2 東京地判平成25年10月24日
 1 事案の概要

Aが入院中に作成していたノート(以下「本件ノート」という。)の一部分に、長女には絶対に財産を与えないとする文書が残されていた。この文書の本末尾には「A」の署名と、片仮名を崩したサイン様なもの(以下「本件サイン」という。)が青色の筆記具で記載されていた。もっとも、印章を押捺して印影を顕出させる方法による押印はされていない。

検認手続後、Aの長女が遺言者の二女に対し遺言無効確認訴訟を提起した。

 

2 判旨

【押印要件の趣旨】
「・・民法968条1項が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照)、いまだ我が国においては、重要な文書について、押印に代えて本件サイン等のような略号を記載することによって文書の作成を完結させるという慣行や法意識が定着しているとは認められない。

【本件サインは押印と同等といえないこと】
「被告は、本件サイン等が「押印」と同等の意義を有すると主張するが、以下のとおり、Aも法的意味を有する重要な文書について本件サイン等を記載することによって作成を完結させていたとは認められない。すなわち、本件略号は、本件ノートのうち平成18年7月11日の頁(乙12の7枚目)や、乙18、19の書面に記載されていることが認められるが、それらの書面は、その日の出来事に対する気持ち(乙12)や、人生訓(乙18、19)といった法的意味を有するとはいえない内容を記載するものであり、かえって、Aは、養子縁組に関する覚書(甲10)、手術に関する承諾書(乙3)、建物登記に関する図面(乙9の3・35枚目)といった法的意味を有する文書については、押印あるいは指印することによって文書の作成を完結させていたことが認められる。このようなAの本件略号の使用状況のほか、本件書面は、Aが日々の出来事やそれに対するAの気持ちを主な内容とする本件ノートの一部であることを踏まえると、本件サイン等が、遺言という重要な法的意味を有する意思表示を記載した文書の作成を完結させる意義を有していると認めることはできず、本件サイン等が押印と同等の意義を有している旨の被告の主張は採用できない。」

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