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コラム:口授の要件を欠くとして公正証書遺言が無効となった裁判例

2024.05.18
1 はじめに

公正証書遺言の場合、遺言者の真意を確保するため、遺言者が口授することが要件の一つとなっています。以下では、口授がなかったとされた裁判例を紹介します。

 

2 東京地裁平成11年9月16日
1 事案

・平成7年6月7日~7月4日(遺言作成約1か月前)

遺言者は、乙野病院に入院し、パーキンソン病であると診断された。入院後約1箇月の間、遺言者は、声をかけられても反応がないことが多く、意識が通常よりも相当程度低下した状態にあり、傾眠状態を示すこともあった。

・平成7年7月5日(遺言作成日)

公証人は、公正証書用紙にあらかじめ清書した遺言公正証書の原稿に基づき、一項目ずつそのとおりの内容でよいか遺言者に確認を求めた。遺言者は、これに対して一項目ずつ「ハー」とか「ハイ」とかいう返答の声を発した。遺言者は、返答の声以外の言葉は一言も発しなかった。

・平成7年7月末日(遺言作成後)

遺言者は、パーキンソン病により痴呆が進行し、中枢性失語症による言語機能の喪失、精神状態については障害が高度で常に監視介助または個室隔離が必要という症状が固定した。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、遺言者には遺言能力がなかったとし、仮に遺言能力があったとしても口授がなかったので方式違反により遺言無効と判断しました。

「法が遺言公正証書について口授を要件としているのは、遺言者の真意を確保するためである。したがって、要件充足の可否は、遺言公正証書の作成過程を全体的に観察して、遺言者の意思を確保するに足りるだけの、遺言者による関与が認められるかどうかによって、決すべきである。」

「仮に遺言者に遺言能力があったとしても、遺言者の意識の状態が相当程度低下していたことは前記認定のとおりであり、そのような状態で、公正証書作成に近接した時期に遺言者が直接関与して作成されたものではない遺言内容を公証人が読み聞かせ、遺言者はこれに対して自らは具体的な遺言内容については一言も言葉を発することなく「ハー」とか「ハイ」とかいう単なる返事の言葉を発したにすぎず、遺言者の真意の確認の方法として確実な方法が採られたと評価することができない。」

「・・本件遺言公正証書の作成過程における遺言者の関与の程度は、遺言者の真意の確保という観点からすると、甚だ心許ないというほかない。この程度の遺言者の関与では、遺言者による遺言の内容の口授がなされたと評価することはできない。したがって、本件遺言は方式違反により無効というべきである。」

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