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コラム:遺言執行者の当事者適格に関する裁判例

2024.05.06
1 はじめに

遺言執行者の当事者適格が問題となった最判令和5年5月19日(家庭と法の裁判47号)について説明します。

 

2 事案の概要

Aは、生前、次のような遺言を作成しました。

Aの一切の財産を、
①C(相続人)に2分の1の割合で相続させる
②Cの子であるD(非相続人)に3分の1の割合で遺贈する
③E(非相続人)に6分の1の割合で遺贈する
というのものでした。

Aは平成23年2月に亡くなり、同年4月に遺言執行者が選任されました。同年6月、Aの相続人の一人であるBがAの相続財産である不動産を第三者に売却し、第三者は移転登記をしました。

そこで、遺言執行者は、第三者に対し、所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起しました。

なお、Eは、Aの死後、遺贈の放棄をしています。

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3 問題の所在

①~③の法的性質としては、①は相続分の指定、②③は割合的包括遺贈と解されます。

その上で、遺言執行者は、①を根拠として、平成30年法律第72号の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するか、が問題となりました(争点1)。

また、遺言執行者は、②③の遺言がされた場合において、遺言の効力が発生してから執行されるまでの間になされた不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するか、が問題となりました(争点2)。

 

4 裁判所の判断
1 争点1

「以上によれば、改正法の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産につき、遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しないものと解される。したがって、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合に、上記不動産につき上記遺言の内容に反する所有権移転登記がされたとしても、上記登記の抹消登記手続を求めることは遺言執行者の職務権限に属するものではないというべきである。そうすると、遺言執行者は、上記遺言を根拠として、上記不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではないと解するのが相当である。」

 

2 争点2

「不動産又はその持分を遺贈する旨の遺言(注:特定遺贈)がされた場合において、上記不動産につき、上記の遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされたときは、遺言執行者は、上記登記の抹消登記手続又は上記持分に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解される(前掲最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決参照)。相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合についても、これと同様に解することができる。・・・そうすると、相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合において、遺言執行者は、上記の包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に包括受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされた不動産について、上記登記のうち上記不動産が相続財産であるとすれば包括受遺者が受けるべき持分に関する部分の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。」

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