1 一般論
大学生が交通事故に遭い、就労が遅延した場合、「治療が長期にわたり、学校の卒業ないし就職の時期が遅延した場合、就職すれば得られたはずの給与額が損害として認められる。」とされています(交通事故損害額算定基準)。
この場合の基礎収入額は、就職が内定していない場合、学歴別の初任給平均値によることになります。
以下、就労遅延による損害が問題となった比較的最近の裁判例を紹介します。
2 札幌地判令和3年8月26日(自動車保険ジャーナル2108号掲載)
1 事案
被害者は、事故当時大学2年生(19歳)であり、事故がなく順調にいけば、平成27年3月31日に大学を卒業し、同年4月1日から就職する見込みでした。ところが事故により自賠責1級遷延性意識障害を残すことになり、就職が遅れることになりました。
2 裁判所の判断
被害者は事故当時(平成24年8月17日)大学2年生だったことからして、卒業し、就職する蓋然性が認められるので、就職すれば得られたはずの給与額が損害として認められるとしました。
その上で、基礎収入については、平成27年大卒男子(20~24歳)の平均賃金である327万1700円としました。
そして、休業期間は、就職見込日(平成27年4月1日)から症状固定日(平成28年4月30日)までの396日間としました。
3 コメント
本件は、事故日が平成24年8月17日、症状固定日が平成28年4月30日と治療が長期にわたる事案でした。1で述べた一般論がそのまま当てはまる事案といえます。
3 名古屋地判令和3年11月15日(自動車保険ジャーナル2115号)
1 事案の概要
平成28年4月30日、本件事故(直進四輪車・右折二輪車)が発生しました。事故当時、右折二輪車(以下、被害者という)は大学3年生でした。
被害者は、平成28年10月に復学することができました。もっとも、本件事故により長期間の入院、通院等を余儀なくされたことにより、4年生時、卒業研究に着手することができず、大学を1年留年することになりました。
その後、被害者は、令和3年3月、大学院(博士前期課程)を卒業し、同年4月に社会人となりました。
被害者は、交通事故に遭わなければ、令和2年3月に大学院を卒業し、同年4月に社会人になる予定でした。
そこで、被害者は、当初の卒業見込時(令和2年3月)の大学生の年齢性別に対応する大学・大学院卒男子の平均賃金1年分に相当する損害の賠償を請求しました。
2 裁判所の判断
裁判所は、交通事故により大学院の卒業が1年遅れたと認定し、1年分の平均賃金に相当する損害が生じたと認めました。もっとも、この損害は本件事故後4年後に顕在化した損害であることを考慮し、中間利息を考慮する必要があるとし、平均賃金に4年のライプニッツ係数を乗じました。