1 はじめに
廃除は遺言により行うことができます(民法893条)。また、相続分の指定も遺言により行うことができます(民法902条1項)。
例えば、「私の現在の財産年金の受給権は相続人Aには一切受け取らせないようお願いします」との趣旨が記載されている自筆証書遺言があるとします。この遺言が廃除と解釈された場合、Aは遺留分さえも取得することができなくなります。他方、相続分ゼロ指定と解釈された場合、Aは遺留分を取得することができます。このように、廃除と解釈するか、相続分ゼロ指定と解釈するかで遺留分を取得できるか否かが変わってくることになります。
以下では、原審は相続分ゼロ指定と解釈したのに対し、高裁は廃除と解釈した裁判例を紹介します。
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2 広島高決平成3年9月27日
1 事案の概要
被相続人は、昭和49年7月27日、71歳で、当時53歳の妻と再婚(3度目)した。
妻は、昭和58年4月に入院した。その際、被相続人らが家の中を探したところ、妻名義の預金通帳しか出てこず、被相続人名義の預金等はなかったこと、妻名義の預金通帳には被相続人の年金全てが振り込まれていたことが判明した。そのため、被相続人は妻が財産目当てに自分と結婚したのではないかとの疑念を持つようになった。
そこで、被相続人が、妻に、上記のことを追及したことから、両者の関係は悪化し、妻が退院した後も被相続人が亡くなる昭和63年11月9日まで別居生活が続いた。
被相続人は、昭和63年1月10日に、本件遺言書を書いた。
概ね次のような内容が書かれている。
・被相続人は妻が財産目当てに結婚したと判断した。
・被相続人は、妻が被相続人の年金、財産を相続せんがために離婚を拒否していると考えている。
・被相続人としては、何度も裁判所に離婚の訴えを提起しようと考えたが、妻が離婚に応じるとも思えないので、遺言を書き残すことにした。
その上で、最後には、「事実上離婚が成立しているものと考えて私(石松を指す)の現在の財産年金の受給権は友美(抗告人を指す)にわ一切受取らせないようお願ひします」と書かれていた。
2 判旨
「以上認定の石松と抗告人との別居の事情、別居から死亡までの事情、本件遺言書の記載内容を検討すると、本件遺言書の趣旨は、原審判のように、抗告人の相続分を零と定めた趣旨であると解することはできず、右遺言書の趣旨は、抗告人から自己の推定相続人としての遺留分をも奪って、自己の遺産の一切を与えまいとしたもの、すなわち、抗告人を被相続人石松の推定相続人から廃除する意思を表示したものと解するのが相当である。」
「ところで、抗告人は、抗告人には本件遺言書に記載されているような不行跡な事実は存在しないとして、本件遺言書に示されている廃除の意思表示の効力を争う態度を示している。そうだとすると、原審としては、相手方等に促して、本件遺言書について遺言執行者選任の申立てをさせ、右選任された遺言執行者をして抗告人に対する廃除の申立てをさせるとともに、相続人廃除の確定審判を待たずに抗告人を加えて遺産分割の審判をするか、あるいは、右確定審判を待って遺産分割の審判をすべきである。」
3 最後に
家庭裁判所は、妻が「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があった」か否かを審理することになります(民法892条)。家庭裁判所が上記事由はないので廃除が認められないと判断した場合であっても、上記遺言書は相続分をゼロとする指定をしたものと解釈できる余地は残されています(つまり、廃除、相続分ゼロ指定は択一関係にはない)。
以上、廃除と相続分指定の区別について説明しました。遺言の一般的なことについては、関連記事をご確認ください。
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