1 はじめに
遺留分権利者が、受遺者等に対し、遺留分侵害額請求を行使した場合、受遺者等は金銭債務を支払う義務を負うことになります。この金銭債務は期限の定めがない債務となるところ、受遺者等は、具体的な金額を示されて請求を受けた時点から履行遅滞となります(民法412条3項)。
具体的な金額を示されて請求を受けた受遺者等が直ちに金銭を用意することができればよいですが、直ちに用意することができない場合、完済するまで遅延損害金が発生することになります。
民法は、このような受遺者等が被る不利益を回避する方策を設けました。具体的には、民法1047条5項では、「裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。」と定められました。以下では、裁判所による期限許与について説明していきます。
2 趣旨
遺留分侵害額請求権の行使を受けた受遺者等が、直ちに金銭を準備できない場合、支払うまでの間の遅延損害金が発生することにより不利益を被る可能性があります。そこで、法は、受遺者等の請求により、裁判所が相当の期限の許与をすることにしました。
3 要件
民法1047条5項では、期限の供与がどのような場合に認められるかについて明文の規定はありません。もっとも、趣旨からすれば、裁判所は、受遺者等において直ちに金銭を用意することが困難な具体的事情が認められる場合、期限の許与をすることになります。
受遺者等において直ちに金銭を用意することが困難な具体的事情が認められる場合とは、
・相続によって取得した金融資産が少ない
・自身も預貯金に余裕がない
・金融機関等から借入れを行うことが困難である
・相続によって取得した不動産の売却に一定の期間を要する
といった事情が考えられます。
4 行使方法
1 遺留分侵害額請求訴訟を既に提起されている場合
受遺者等は、遺留分侵害額請求訴訟において、期限の許与を抗弁として主張するか、または反訴提起することになります。
2 遺留分侵害額請求訴訟を提起されていない場合
受遺者等は、期限の許与を求める訴え(形成の訴え)を提起することになります。
5 効果
民法1047条5項では、期限の許与を、どの範囲で認めるかについて明文の規定がありません。もっとも、趣旨からすれば、裁判所は、通常その資金を調達するのに必要な期間を許与することになります。
裁判所による期限の許与がなされた場合は、期限までは遅延損害金が発生しないことになります。
6 最後に
遺留分について一般的なことは関連記事をご参照ください。
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