TOPICS

コラム:相続人への生前贈与と遺留分侵害額請求

2024.03.31
1 はじめに

従前、相続人に対する特別受益としての贈与は、全て、遺留分算定の基礎財産に算入されていました。ところが、民法改正により、遺留分算定の基礎財産に算入されるのは、相続開始前の10年間になされた特別受益としての贈与に限定されることになりました(民法1044条3項)。以下、この規律について具体的に説明していきます。

 

2 相続開始前10年間の贈与
1 事例

被相続人甲、相続人が子の乙と丙がいました。甲は、第三者の戊に対し不動産(5000万円)を遺贈していました。また、亡くなる30年前、丙に対しマイホーム建築費用として現金3000万円を生前贈与していました。乙は誰に対しいくらの遺留分侵害額請求をすることができるでしょうか。

 

2 計算

遺留分算定の基礎財産に算入されるのは、戊への遺贈分5000万円となります(民法1043条1項)。次に、丙に対する生前贈与3000万円は、相続開始前10年間の贈与とはいえないので、基礎財産には算入されません(民法1044条3項)。したがって、遺留分算定の基礎財産は5000万円となります。

乙の遺留分額は、5000万円×2分の1×2分の1=1250万円となります(民法1042条)。

乙の遺留分侵害額については、乙は遺贈や生前贈与を一切受けておらず控除するものがないので、1250万円-0円=1250万円となります(民法1046条2項)。

よって、乙は、受遺者である戊に対し、1250万円の遺留分侵害額請求をすることができます(民法1047条1項1号)。

 

3 遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
1 規律

当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」といえる場合、相続開始前10年間という期間制限が外れることになり、例えば亡くなる30年以上の前の贈与も遺留分算定の基礎財産に算入されることになります(民法1044条1項)。

 

2 判例

では、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」とは具体的にどのような場合をいうのでしょうか。

判例(大判昭和11年6月17日)は、被相続人が①遺産の大半を贈与し、かつ、②贈与以降、遺産が増えないことを予見していた場合は、「損害を加えることを知って」した贈与にあたるとしました。

 

3 計算

2・1の事例において、甲が乙に「損害を加えることを知って」した贈与と認定された場合、乙は誰に対しいくらの遺留分侵害額請求をすることができるでしょうか。

遺留分算定の基礎財産は、戊への遺贈分5000万円(民法1043条1項)と、丙に対する生前贈与3000万円(民法1044条1項)になりますので、5000万円+3000万円=8000万円となります。

乙の遺留分額は、8000万円×2分の1×2分の1=2000万円となります(民法1042条)。

乙の遺留分侵害額については、乙は遺贈や生前贈与を一切受けておらず控除するものがないので、2000万円-0円=2000万円となります(民法1046条2項)。

よって、乙は、受遺者である戊に対し、2000万円の遺留分侵害額請求をすることができます(民法1047条1項1号)。

 

4 最後に

遺留分について一般的なことは関連記事をご参照ください。

【関連記事】

✔遺留分一般についての解説記事はこちら▶遺留分

無料相談

無料相談

078-361-3370

078-361-3370

お問い合わせ

お問い合わせ