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コラム:免責不許可となった裁判例

2024.03.24
1 はじめに

破産をする場合はセットで免責を求めることになりますが、免責不許可事由がある場合は免責が認められません。もっとも、裁量免責事由が認められれば免責が認められますが、実際のところ、免責不許可となったケースはそう多くありません。以下では、免責不許可となった千葉地方裁判所八日市場支部平成29年4月20日決定を紹介します。

 

2 事案の概要
1 破産手続申立前の事情

甲は、平成28年4月15日、元夫と調停離婚した。同調停においては、両名の離婚のほか、元夫が破産者に対し、同年5月末日限り、離婚に伴う解決金100万円を甲代理人弁護士の預金口座に振り込む方法で支払うことなどが合意された。

甲は、平成28年5月20日、離婚を届け出て、「甲」から「乙」へと復氏した。

元夫は、平成28年5月末までに、100万円を甲代理人弁護士の預金口座に振り込む方法で支払った。

甲は、平成28年7月16日、千葉地方裁判所八日市場支部に対し、同時廃止の意見を付した上で、破産手続開始及び免責許可を申し立てた(以下「本件申立て」という。)。なお、本件申立ては離婚調停と同じ代理人弁護士である。

 

2 破産申立書の内容

破産債権者は3名、負債総額は439万1821円であった。内訳は、自動車ローン、クレジットカード、丙の不貞慰謝料の損害賠償債務(220万円)の3名であった。

本件申立てにおいて、甲は、元夫との離婚の事実を申告しておらず(添付書類として提出された住民票は、届出直前である平成28年5月11日付けのものであった。)、「離婚に伴う財産分与、慰謝料、養育費の有無」について「無」とし、元夫からの100万円の受領についても申告しなかった。

 

3 免責許可決定

丙は、甲から乙へ復氏していることを指摘し、破産法252条1項8号の虚偽説明に当たるなどと述べ、免責は許可されるべきではない旨の意見を述べた。

裁判所は、平成29年2月15日、裁量免責が相当であるとして免責を許可する決定をし、同決定は同年3月1日付けの官報に掲載された。

 

4 抗告

丙は、平成29年3月14日、免責許可決定に対して即時抗告を申し立てた。その際、甲が元夫から100万円の受領した事実を新たに指摘し、法252条1項1号及び8号に当たる旨主張した。

 

3 抗告審の判断
1 免責不許可事由該当性

「甲は、平成28年4月15日の離婚の事実、同離婚に伴い解決金100万円の財産給付を受けた事実及び復氏した事実を秘匿したまま、これらの事実が存在しないかの如き体裁で本件申立てを行っており、これは法252条1項8号の虚偽説明に該当する。また、解決金100万円については、甲の説明を前提としても、甲は本件申立時には31万1000円の現金を所持していたことになり、これについては同項1号の財産隠匿にも該当するというべきである。」

 

2 裁量免責について

「・・甲が支払不能に陥った主たる原因は、丙に対する損害賠償債務を負ったことにあり、浪費や射幸等の事情はうかがわれないこと、現在うつ病に罹患しており体調が万全ではないことなど、相手方に有利に斟酌すべき事情も存在するところではある。
しかしながら、上記のとおり甲には虚偽説明や財産隠匿の免責不許可事由が認められるところ、まず、甲は、離婚やこれに伴う復氏の事実を秘匿して虚偽の氏にて本件申立てを行い、現に虚偽の氏にて破産手続開始及び同手続の廃止の決定を受けている。これは、破産債権者らに対しては「丙村花子」という架空の者を破産者として免責等の効果を生じさせる一方で、自らは破産手続とは関わりのない「乙」として生活していくことを企図したものといわざるを得ず、破産手続に対する社会の信頼を著しく損なうものというべきである。また、相手方は、抗告人の指摘を受けてようやく復氏後の氏を申告しているが、その際にも、本件申立てのわずか1月半ほど前に受領した100万円の解決金について一切申告をせず、そのまま免責許可の決定を受けており、反省の情もうかがわれない。基本事件の破産手続は、甲の意見のとおり同時廃止により進められており、破産管財人による財産等の調査は予定されていないところ、離婚に伴う復氏及び解決金100万円の受領が明らかになったのは、破産手続が廃止により終了した後のことであり、しかも、丙による独自の調査がなければ、いずれの事実も明らかにはならなかったと推認できることからすれば、同時廃止による破産手続の公正かつ迅速な遂行に与えた影響も多大といわざるを得ない
法は、裁判所に対して意図的に虚偽の事実を申告するような不誠実な破産者にまで免責の保護を与えることは予定していないというべきであることからすれば、甲に有利な上記事情を最大限考慮しても、甲について免責を許可しないことが相当というべきである。」

 

4 若干のコメント

決定書によれば、甲の代理人が報告した100万円の使途は、以下のとおりでした。
① 法テラス償還(離婚調停、損害賠償請求控訴審) 36万9000円
② 離婚調停弁護士報酬(法テラス決定分) 10万8000円
③ 損害賠償請求控訴審印紙、郵券代 3万円
④ 破産申立実費(官報公告費等) 2万円
⑤ 破産申立弁護士費用 16万2000円
⑥ 平成28年10月12日から同29年1月11日までの入院の入院費の一部 残金すべて

①~⑥の費用はいずれも有用な資と解されるので、当初から、原則どおり管財事件として申し立てて、離婚した事実、離婚に伴い解決金100万円を受領した事実を誠実に申告していれば、最終的に免責が認められたものと思われます。

 

5 最後に

以上、免責不許可となった裁判例について説明しました。破産手続一般についての解説は関連記事をご確認ください。

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