1 はじめに
特定財産承継遺言により遺産の一部を取得した相続人は、残りの遺産についての分割において、当該取得分が特別受益(民法903条1項)にあたるため、持戻し義務を負うことになるかが問題となった裁判例を紹介します。
2 広島高裁岡山支部平成17年4月11日
1 事案
遺言者は、特定の遺産を特定の相続人である甲に相続させ、相続人以外の者である乙にも遺産を遺贈する内容の遺言書を作成し、亡くなりました。甲は、遺言書に基づき、遺言執行者から多額の遺産を受け取りました。
乙は、遺言者が亡くなった後、遺贈を放棄することになりました(民法986条1項)。これにより、「遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。」(同条2項)となるため、遺贈放棄分について、相続人間で遺産分割を行う必要が生じました。
甲以外の相続人は、次のとおり主張しました。「甲は、法定相続分を超える多額の特別受益を既に受領済みであるから、民法903条により、乙の遺贈放棄分についてはもはや取得分はない。」
2 判旨
一審は、甲に相続させる旨の遺言は、遺贈と解すべき特段の事情が無く、遺産分割方法の指定であるから、甲の取得分は特別受益に該当しないとしました。
これに対し、二審は、一審同様、当該遺言は遺産分割方法の指定であるとしましたが、その法的効果は遺贈と似ていることを考慮し、民法903条1項の類推適用により、甲の取得分は特別受益に該当するとしました。そして、甲はすでに具体的相続分以上の遺産を取得しているため、乙の遺贈放棄分を取得することができないとしました。
「被相続人の公正証書遺言の「相続させる」旨の記載は、遺贈の趣旨であるとは解されないのであるが、特定物を相続させる旨の遺言により、当該特定物は、被相続人の死亡と同時に当該相続人に移転しており、現実の遺産分割は、残された遺産についてのみ行われることになるのであるから、それは、あたかも特定遺贈があって、当該特定物が遺産から逸出し、残された遺産について遺産分割が行われることになる場合と状況が類似しているといえる。したがって、本件のような「相続させる」趣旨の遺言による特定の遺産承継についても、民法903条1項の類推適用により、特別受益の持戻しと同様の処理をすべきであると解される。」
3 最後に
以上、特定財産承継遺言により遺産の一部を取得した相続人は残りの遺産を相続できるかについて説明しました。遺言の一般的なことについては、関連記事をご確認ください。
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