1 はじめに
公正証書遺言が方式違反となり効力を有しない場合であっても、当該遺言が死因贈与契約と解釈できるとした裁判例を紹介します。
2 東京高判昭和60年6月26日
1 事案の概要
公正証書遺言を作成する際は証人2名の立会いが必要となりますが、「推定相続人・・・の配偶者」は証人となることができません(民法974条2号)。そのため、推定相続人の配偶者が証人となっていた場合、当該公正証書遺言は方式違反となり、無効となります。
相続人は公正証書遺言による遺贈を原因とする土地所有権移転登記をしましたが、その遺言書は推定相続人の妻が証人となっており、方式違反により無効でした。そこで、相続人の一人が、方式違反により無効な公正証書による遺贈を原因とする土地所有権移転登記の更正登記手続を求めました。
2 裁判所の判断
一審は、方式違反の公正証書遺言を死因贈与契約書面とみることはできないとしましたが、控訴審は以下のとおり一審を覆し、本件移転登記は、書面による死因贈与契約に基づくものとして有効とし、相続人の請求を棄却しました。
「民法五五〇条が書面によらない贈与を取り消しうるものとした趣旨は、贈与者が軽率に贈与を行うことを予防するとともに贈与の意思を明確にし後日紛争が生じることを避けるためであるから、贈与が書面によってされたものといえるためには、・・・当事者の関与又は了解のもとに作成された書面において贈与のあったことを確実に看取しうる程度の記載がされていれば足りるものと解すべきところ、・・・前記認定のように、松太郎が本件土地を控訴人に死因贈与し、松太郎は右死因附与の事実を明確にしておくため公正証書を作成することとし、控訴人の了解の下に前記遺言公正証書の作成を嘱託したことが認められ、このことと遺贈と死因贈与とはいずれも贈与者の死亡により受贈者に対する贈与の効力を生じさせることを目的とする意思表示である点において実質的には変わりがないことにかんがみると、前記遺言公正証書は前記死因贈与について作成されたものであり、前記のようなかしの存在により公正証書としての効力は有しないものの、右死因贈与について民法五五〇条所定の書面としての効果を否定することはできないものというべきである。」
3 最後に
以上、方式違反の公正証書遺言を死因贈与契約とした裁判例について説明しました。遺言の一般的なことについては、関連記事をご確認ください。
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