1 はじめに
遺言が、特定財産承継遺言(遺産分割方法の指定)なのか、それとも相続分の指定をしたものなのかが争われた東京地判平成4年12月24日を紹介します。
2 事案
1 遺言書の内容
不動産及び商品、什器備品、売掛債権その他一切の財産を、次のとおりの割合で相続人に相続させ、X3に遺贈する。
①Y1、Y2、Y3、Y4 →16分の1
②X1、X2 →16分の3
③X3(非相続人)、X4、X5 →16分の2
2 争点
Xらは、遺言書は「相続させる」という文言があることから、特定財産承継遺言であり、遺産分割方法が指定されていると解されるとしました。その上で、遺産は遺産分割手続を経ずに相続人らに承継されるとし、地方裁判所に対し共有物分割請求訴訟を提起しました。
他方、Yらは、遺言書は相続分の指定(包括名義による遺贈)をしたのであり、遺産については遺産共有状態であるから、家庭裁判所で遺産分割調停(審判)で解決するべきであり、訴えは却下されるべきであると主張しました。なお、Yらは、寄与分の主張をしたかったので、遺産分割調停(審判)の実施を望んでいました。
3 裁判所の判断
1 概要
以下のとおり、本遺言は特定財産承継遺言(特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言)とは評価できず、相続分の指定がなされたにすぎず、遺産共有状態のままであるとし、原告らの訴えを却下しました。
2 判旨
「・・しかし、本件遺言は、「特定の遺産」について「特定の相続人」に相続させる意思を表明したものとみることが困難である。なるほど本件不動産については、その目録を遺言書に添付して特定しているものの、本件遺言は、本件不動産とともに遺言者の所有する「商品、什器備品、売掛債権その他一切の財産」を一定の割合で相続人らに相続させるとしているのであって、本件不動産以外は特定性を欠いているし、その遺産の承継すべき者として相続人のうちの特定人を指定しているわけでもない。要するに、本件遺言は、遺言者の全財産について、一定割合を相続人以外の者に遺贈したほかは、相続人ら全員に割合的に相続させることを指示しているものであって、仮に遺言によって直ちに遺産承継の効果が生じるものとすれば、受遺者及び相続人全員による、可分債権を除く全遺産の共有状態が現出されるにすぎないものである。
・・・結局、本件遺言においては「相続させる」との文言により、遺産の分割方法が定められたとみるべきではなく、相続分の指定がなされたものと解するのが相当である。」
4 参考判例(最判平成3年4月19日)
特定財産承継遺言の法的性質や効果については最判平成3年4月9日が述べているところです。以下、ポイントを紹介します。
・「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)とは、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言をいう。
・特定財産承継遺言は、民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束されることになる。
・特定財産承継遺言の場合、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される。
5 最後に
遺言の一般的なことについては関連記事をご参照ください。
【関連記事】
✔遺言の一般的な解説記事はこちら▶遺言書・遺言執行