TOPICS

コラム:療養看護型の寄与分の裁判例

2024.03.15
1 はじめに

子は親に対し扶養義務を負っているので、子の親に対する介護が全て寄与分(民法904条の2第1項)として考慮されるわけではありません。しかし、介護が親族間の扶養義務に基づく一般的な寄与の程度を超えていた場合、親は他人を職業介護士として雇った場合支払うべき費用の支払いを免れ、相続財産の減少を免がれることになります。したがって、このような子の親への介護は、被相続人の財産の維持につき特別の寄与をしたものと評価されます。

そこで、以下では、療養看護型の寄与分が問題となった東京高裁平成29年9月22日決定を紹介していきます。

【関連記事】

✔療養看護型の寄与分の一般的なことについての解説記事はこちら▶コラム:療養看護の寄与分

 

2 介護報酬額について
1 原審の判断

原審は、介護報酬額は介護報酬基準額に基づき算出するべきとしていました。

「要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令(平成11年4月30日厚生省令第58号)は、要介護4を要介護認定等基準時間が90分以上110分未満である状態又はこれに相当すると認められる状態、要介護5を要介護認定等基準時間が110分以上である状態又はこれに相当すると認められる状態と定めている。
一方、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)の指定居宅サービス介護給付費単位数表(平成26年度介護報酬改定前のもの)によれば、身体介護が中心である場合の訪問介護費は、所要時間90分以上120分未満の場合につき6670円(1点10円で円単位に換算。以下同じ)、120分以上150分未満の場合につき7500円になる。
以上によれば、要介護4の場合は所要時間90分以上120分未満の訪問介護費である6670円を、要介護5の場合は所要時間120分以上150分未満の訪問看護費である7500円をそれぞれ介護報酬(日当)として採用するのが相当である。」

 

2 高裁の判断

高裁は、「被相続人に対して看護又は介護の資格を有している者が介護するのに要する時間を算定する方法として、一定の合理性があるというべきである。」とし、原審の計算方法は合理性が認められるとしました。

 

3 早朝夜間の加算
1 当事者の主張

当事者は、早朝や夜間にも被相続人の介護をしているから、介護報酬に割増加算をすべきであると主張していました。

 

2 高裁の判断

これに対し、高裁は、当事者の主張する事実を認めるに足りる的確な資料はないとしつつ、以下のとおり述べ、当事者の主張を排斥しました。

「・・そもそも、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は相続分自体において評価されているというべきであり、寄与分は、これを超える特別の貢献をした場合に、相続人の行為によって被相続人の財産が減少することが防止できた限度で認められるものであって、相続人が、被相続人の療養看護をした場合であっても、相続人が行った介護について被相続人に対する報酬請求権を認めるものではないから、相続人がした全ての介護行為について、被相続人が資格を有する第三者に介護を依頼した場合と全く同額の報酬相当額を寄与分として算定することは相当ではない。被相続人と同居していた子である抗告人が行った介護行為の一部は通常期待される範囲内のものということができるから、仮に、抗告人が、早朝や夜間に被相続人の介護をしたことがあったとしても、抗告人が被相続人に対してした一切の介護行為及び所要時間について、有資格者である第三者が介護した際と全く同様の報酬基準で寄与分を算定しなければ不当であるとはいえない。」

 

4 裁量割合
1 原審の判断

原審は、介護報酬額に裁量的割合として0.7を乗じて寄与分を算出しました。

 

2 高裁

高裁は、次のとおり述べ、裁量割合を0.7としたことは不当ではないとしました。

「前記のとおり、被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献は相続分自体において評価されているというべきであるところ、抗告人は被相続人の子であって、抗告人がした介護等には、被相続人との身分関係に基づいて通常期待される部分も一定程度含まれていたとみるべきこと、抗告人は、被相続人所有の自宅に無償で居住し、その生活費は被相続人の預貯金で賄われていたこと、被相続人は、第三者による介護サービスも利用していたことからすれば、原審判が、第三者に介護を依頼した際に相当と認められる報酬額に裁量的割合として0.7を乗じて寄与分を算出したことが不当であるとはいえず、抗告人の主張は採用できない」

 

3 参考判例

盛岡家裁昭和61年4月11日は、同じく療養看護型の寄与分が問題となりましたが、上記とは異なる理由により裁量割合を60%としました。

「申立人は職業付添婦ではないことや昭和46年から6年間くらいは被相続人の療養看護の傍、家族のための一般家事労働をなす余裕もあつたものと認められることを考慮すると、申立人の療養看護による寄与分の額は上記金額の60バーセント程度・・認めるのが妥当である。」

 

5 最後に

以上、療養看護型の寄与分に関する裁判例についてご説明しました。寄与分の一般的なことについては、関連記事もご参照ください。

【関連記事】

✔寄与分一般についての解説記事はこちら▶その他の問題(寄与分・特別受益)

無料相談

無料相談

078-361-3370

078-361-3370

お問い合わせ

お問い合わせ