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コラム:相続人の配偶者が得た特別受益

2024.03.16
1 はじめに

被相続人が相続人の一人の配偶者に対し生前贈与をした場合、形式的に見る限り特別受益(民法903条1項)にはあたらないことになります。しかし、実質的には相続人に対する贈与と言えるような場合は、相続人間の実質的な公平の観点から、当該相続人の特別受益とみて持戻義務を認めるべきと思われます。

そこで、以下では、相続人の配偶者に対する贈与などが当該相続人の特別受益であると判断した裁判例を紹介します。

 

2  福島家裁白河支部審判昭和55年5月24日
1 はじめに

相続人の夫に対する農地の贈与等が特別受益に該当するが問題となりましたが、農地等を夫に贈与することになった経緯、遺産総額に占める農地の価額の割合を考慮し、特別受益に該当するとしました。

 

2 一般論

「本件贈与は、相続人である相手方Aに対してではなく、その夫であるBに対してなされているのであるから、形式的に見る限り特別受益にはあたらないことになる。しかし、通常配偶者の一方に贈与がなされれば、他の配偶者もこれにより多かれ少なかれ利益を受けるのであり、場合によつては、直接の贈与を受けたのと異ならないこともありうる。遺産分割にあたつては、当事者の実質的な公平を図ることが重要であることは言うまでもないところ右のような場合、形式的に贈与の当事者でないという理由で、相続人のうちある者が受けている利益を無視して遺産の分割を行うことは、相続人間の実質的な公平を害することになるのであつて、贈与の経緯、贈与された物の価値、性質これにより相続人の受けている利益などを考慮し、実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、たとえ相続人の配偶者に対してなされた贈与であつてもこれを相続人の特別受益とみて、遺産の分割をすべきである。」

 

3 贈与の経緯

「・・本件贈与はA夫婦が分家をする際に、その生計の資本としてAの父親である被相続人からなされたものであり、とくに贈与された土地のうち大部分を占める農地についてみると、これを利用するのは農業に従事しているAであること、また、右贈与は被相続人の農業を手伝つてくれたことに対する謝礼の趣旨も含まれていると認められるが、農業を手伝つたのはAであることなどの事情からすると、被相続人が贈与した趣旨はAに利益を与えることに主眼があつたと判断される。登記簿上Bの名義にしたのは、Aが述ベているように、夫をたてたほうがよいとの配慮からそのようにしたのではないかと推測される。以上のとおり本件贈与は直接Aになされたのと実質的には異ならない」

 

4 相続人の受けている利益

「・・また、その評価も、遺産の総額が、二一、四七三、〇〇〇円であるのに対し、贈与財産の額は一三、五五一、四〇〇円であり、両者の総計額の三八パーセントにもなることを考慮すると、右贈与により邦子の受ける利益を無視して遺産分割をすることは、相続人間の公平に反するというべきであり、本件贈与は邦子に対する特別受益にあたると解するのが相当である。」

 

3 高松家裁丸亀支部審判平成3年11月19日
1 はじめに

被相続人Aは、一人の相続人Bの夫Cの身元保証をしていましたが、Cが会社で不祥事を起こしたため、Cの会社に対し数百万円を支払いました。ところが、Aが、亡くなるまで、Cに対し、その求償をしませんでした。

裁判所は、AのCに対する求償権の免除を特別受益に該当するとしました。

 

2 判旨

「・・前記のとおり、申立人の夫(注:C)が勤務先で不祥事を起こしたので、同夫の身元保証をしていた被相続人(注:A)はその責任を問われ、右勤務先等に対し、遅くとも昭和40年までに少なくとも300万円を支払った・・。被相続人は申立人の夫に対し、右支払い金額を請求することがなかったと認められるので、そのころ申立人(注:B)の家族の幸せのためその支払いを免除したものと解される。
ところで、被相続人の右金銭の支払いは、自己の身元保証契約上の債務を履行したものであるから、それ自体は申立人に対する「生計の資本としての贈与」とは解することができないけれども、申立人の夫に対する求償債権の免除は、申立人に対する「相続分の前渡し」としての「生計の資本としての贈与」と解するのが相当である。」

 

4 最後に

以上、相続人の配偶者が得た特別受益について説明しました。特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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