1 はじめに
一部の親族が認知症の本人を囲い込んでしまい、医師の診察を受けることができず、診断書を取得することができない場合、他の親族は本人の成年後見の申立ができないのでしょうか。
2 医師の診断書の重要性と家庭裁判所の「鑑定」
成年被後見人とは、精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人をいいます。
家庭裁判所は、精神上の障害によって判断能力が欠くかどうかにおいて医師の診断書を重視します。
そのため、親族が成年後見の申立をする際、本人に医師の診察を受けさせ、診断書を作成する必要があります。
もっとも、親族間の折り合いが悪い場合に、同居の親族など一部の親族が、本人を囲い込んでしまい、他の親族との接触を断つことがあります。この場合、他の親族は、本人に、医師の診断を受けさせることができず、後見開始の審判の申したができないため、本人の財産の適切な管理がなされないままになってしまいます。
そこで、家庭裁判所は、申立資料が不十分な場合、審判開始に先立って、医師による鑑定や、調査官による生活の調査が行うことがあります。これは、家事事件手続法第109条第1項は「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない。」と規定しているからです。
家庭裁判所の鑑定の実施状況について、最高裁判所事務総局家庭局が公表している「成年後見関係事件の概況ー令和4年1月~12月ー」によれば、医師による鑑定が実施されたケースは全体の約4.9%(前年は約5.5%)です。
また、鑑定にかかる費用は5万円以下が45.4%と最も多く、次いで5万円超え10万円以下が41.5%であり、20万円を超えるケースは0.2%のみのようです。
鑑定に要する期間は、1か月以内が最も多く53.3%であり、3か月以内で終結するケースが90%以上を占めています。
3 まとめ
鑑定を実施したケースは、全体の割合としては多くありませんので、家庭裁判所は何でもかんでも鑑定を行っているわけではなさそうです。
費用の予納はもちろんのこと、鑑定の必要があることを、何らかの形で資料として提出する必要があるでしょう。その点を除けば鑑定費用は比較的低額にとどまっていますし、鑑定期間も比較的短期間ですので、申立人の負担はそれほど大きくありませんので、検討する価値はあるでしょう。鑑定費用は、申立人が負担しますが、費用についても審判があり、申立が認容された場合には本人負担となって、成年後見人から申立人に支払われることになります。
4 最後に
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