1 はじめに
平成29年6月、強姦罪の構成要件と法定刑が改められ、強制性交等罪とするなどの改正がなされました。
平成29年6月の改正のポイントは次のとおりでした。
・客体は、女性だけでなく、男性も含まれることになりました。
・行為は、口腔性交・肛門性交も含まれることになりました。
・法定刑は、3年から5年に引き上げられ、執行猶予がつかなくなりました。
その約3年後である令和5年6月、刑法や刑訴法の一部が改正され、新たに性的姿態撮影等処罰法が創設されることになりました。
以下では、その概要を説明していきます。
2 刑法の一部改正
1 強制わいせつ罪・強制性交等の要件の改正
まず、改正前の強制わいせつ罪及び準強制わいせつ罪並びに強制性交等罪及び準強制性交等罪では、暴行・脅迫及び心神喪失・拒抗不能が要件となっていました。これに対し、改正後は、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」に統一することになりました(刑法176条1項・2項および177条1項・2項)。
また、性交同意年齢が引き上げられることになりました(176条3項及び177条3項)。
さらに、わいせつな挿入行為の取り扱いが見直されることになりました。具体的には、改正法では、膣又は校門に陰茎以外の身体の一部又は物を入れる行為も「性交等」に含まれることになりました(刑法177条)。
そして、配偶者間において不同意わいせつ罪及び不同意性交等罪が成立することが明確化されました(176条1項及び177条1項)。
2 16歳未満の者に対する面会要求等の罪の新設
若年者が、年長者によって手なずけられ、懐柔されることによって、性被害に遭っている認識しないまま被害を受け、性的に搾取されている実態がある(性的グルーミング)ことから、新たな規定を設けることになりました。
改正刑法182条では、対面型のわいせつ行為を防ぐ目的の面会要求罪(1項)、面会罪(2項)、オンライン等の遠隔型で行われるわいせつ行為を防ぐ目的の性的姿態の映像送信要求罪(3項)を新たに設けることになりました。
これらの罪は、不同意わいせつ・不同意性交等罪(刑法176条・177条)の予備罪的性格を有することになります。
3 性的姿態撮影等処罰法
1 はじめに
以下では、罰則の新設、複写物の没収、行政手続としての消去・廃棄に分けて説明していきます。
2 罰則の新設(法2章)
盗撮行為や盗撮画像の提供は、都道府県の迷惑防止条例、いわゆる児童ポルノ処罰法などで処罰されていましたが、昨今の状況を踏まえて、新たな処罰規定が創設されました。
具体的には、性的な姿態の記録を新たに生み出す行為や、これらの行為により制裁された記録を拡散させる行為などを処罰する罪が設けられました。
3 複写物の没収(法3章)
被害者の性的姿態をスマートフォンで撮影し、そのデーターをハードディスクにコピーする場合、このハードディスクは、複写物であるところ、「犯罪行為によって生じ・・・た物」(刑法19条1項)にがあたりません。
そこで、こうした複写物をも没収の対象とするため、刑法19条1項の補充規定が設けられることになりました。
4 行政手続としての消去・廃棄(法4章)
没収は刑罰なので(刑法9条)、起訴→有罪判決を経なければ没収はできません。そのため、例えば、多数の性犯罪の嫌疑があるものの一部の被害者に対する行為しか起訴されなかった場合、起訴されていない行為の記録は没収することができません。
これまでは、検察実務では、被押収者からの任意の所有権放棄を得る努力をしていましたが、応じない事例も散見されるため、新たに規定(ただし行政手続規定)が設けられることになりました。