1 はじめに
破産法30条1項2号によれば、「不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」、破産手続申立ては棄却されることになります。
一審が破産手続開始決定をしたのに対し、控訴審がそれを取り消して破産手続申立決定を棄却した仙台高決令和2年10月13日を紹介します。
2 事案の概要
申立人は勤務医で、申立て当時、月収は手取り65万円ほどありました。
申立人の債務は、次のとおりでした。
①前々妻との間で交わした合意に基づく養育費、慰謝料の支払義務
②住宅ローン保証会社に対する債務 3776万円ほど
③その他の債務 340万円ほど
①について、養育費については破産法253条1項4号ハ、慰謝料については同条1項3号に基づき非免責債権となる可能性がありました。
②について、申立人は、前妻との間で、マンションを財産分与し、引き続き住宅ローンを支払う旨の離婚協議書を交わしていました。
このように、破産債権として免責の対象となるのは②③であるところ、破産債権全体に占める②の割合は92%となっていました。
3 裁判所の判断
裁判所は、要旨、以下のとおり、破産手続開始の申立てを棄却すべきと判断しました。
申立人は、前妻との間で、マンションを財産分与し、引き続き住宅ローンを支払う旨の離婚協議書を交わしていました。そして、この離婚協議書に基づく義務を免れるため、意図的に住宅ローンの支払いを停止して破産することにより債権者(ローン保証会社)に抵当権を実行させ、これにより前妻に対して負うことになる住宅ローン支払義務の債務不履行による損害賠償債務(破産債権)の免責を得ようという不当な目的が認められるとしました。
4 補足
本件は、不当な目的の有無の前段階として、支払不能要件(破産法30条1項)を充足するかも問題となった事案でした。
破産手続申立てを棄却されることになった申立人としては、①や③について支払い条件の変更などの協議(調停)をしていくことになります。
5 最後に
不当な目的で破産手続申立てを行った場合について説明しました。破産手続の一般的なことについては関連記事をご確認下さい。
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