1 はじめに
ツイッターに投稿された前科に関する投稿の削除をツイッター社に求めた訴訟において、投稿の削除が認められました(投稿記事削除請求事件、最高裁令和4年6月24日判例タイムズ1507号49頁)。
2 事案の概要
投稿の内容は、約8年前の前科に関するものでした。上告人は、平成24年4月、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入したとの被疑事実で逮捕され、翌月、建造物侵入罪荷により罰金刑に処せられ、その罰金を納付しました。上告人が、上記被疑事実で逮捕された事実(本件事実)は、逮捕当日に報道され、その記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載されました。上告人が削除請求の対象としたのは、これらの報道の一部を転載して、本件事実を摘示する複数の投稿で(本件各ツイート)、これらの報道機関のウェブページへのリンクが設定されていますが、すでにリンク先は削除されています。
3 裁判所が示した基準
本件判決は「上告人が本件事実を公表されない法的利益」と「本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由」を比較し、前者が後者に「優越する場合」には削除を求められるとしました。また、その比較衡量に当たっては、次の①~⑥の要素を考慮しました。
①プライバシーに属する事実であること。
②公共の利害に関する事実か。
③本件事実と公共の利害のか関わりの程度。
④投稿の目的。
⑤上告人と面識のある者に情報が伝播される可能性があること。
⑥上告人の社会的地位。
4 ①~⑥について裁判所の具体的な判断
「本件事実は、他人にみだりに知られたくない上告人のプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。また、本件各ツイートは、上告人の逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。さらに、膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。加えて、上告人は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。 以上の諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。したがって、上告人は、被上告人に対し、本件各ツイートの削除を求めることができる。」
5 本件判決の意義
本件判例以前、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋を検索結果の一部として提供する行為の違法性の有無について、プライバシーに属する事実を公表されない法的利益の優越が「明らか」な場合に削除が認められるとしました。本件判決の意義について、「事例判断ではあるものの、各種SNS上の投稿の削除について,検索事業者が提供する検索結果の削除と異なり、一律に明らか要件を必要とするものではないことを示した点において、理論的にも実務的にも重要な意義を有すると考えられる」と論じています(判例タイムズ1507号49頁)。つまり、投稿された情報の削除が認められるかは、投稿された媒体の性質によって、その要件が変わりうることを示したといえます。
・投稿記事削除請求事件
6 最後に
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