1 高齢の家事従事者の基礎収入
1 高齢でない家事従事者の場合
家事従事者が交通事故により亡くなった場合、逸失利益が問題となります。逸失利益の算定するためには、基礎収入を確定する必要があります。
家事従事者の基礎収入は、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性全年齢の平均年収額とするのが一般的です。
2 高齢の家事従事者の場合
これに対し、60歳以降の高齢の家事従事者の場合、基礎収入は、原則として、年齢別の平均年収額とすることが多いとされています。というのも、高齢の家事従事者の場合、若年とは異なり、養育する子のための家事労働はなくなり、加齢による体力下落から家事労働量も減少するためです。
もっとも、例外として基礎収入を全年齢の平均年収額とされる場合もあります。以下、裁判例を紹介していきます。
2 京都地判令和4年6月16日(自動車保険ジャーナル2132号掲載)
1 はじめに
以下では、事故当時73歳の高齢の家事従事者が交通事故に遭って亡くなったが、逸失利益の基礎収入を全年齢の平均年収額とした珍しい裁判例をご紹介します。
2 原告の主張
基礎収入は、令和元年(事故前年)賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性全年齢の平均年収額388万0100円を採用するべきと主張しました。
3 被告の主張
基礎収入は、事故当時73歳という年齢を考慮し、令和元年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性の年齢別70歳以上の平均年収額294万5600円によるべきである、と主張しました。
4 裁判所の判断
裁判所は、介護及び家事労働の実情を考慮し、原告の主張のとおり年収額388万0100円を採用するべきとしました。
「Aは、本件事故当時、原告X1(当時75歳)と同居していたところ、原告X1は、脳梗塞、糖尿病、認知症により、自宅での生活は可能であったものの、日常生活の上で相当の介護を要する状態にあり、その大部分をAが担っていたほか、原告X1の食事の世話を始めとする日常家事全般をAが一人で行っていたものと認められる。以上のような介護及び家事労働の実情を踏まえると、Aは、本件事故当時73歳の高齢ではあったものの、家事従事者としての基礎収入は、令和元年賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計・女性全年齢の平均年収額388万0100円を採用するのが相当である。」
3 最後に
✔死亡逸失利益に関する全般的な解説記事はこちら▶コラム:死亡逸失利益の計算