1 はじめに
Aは、生前、次のような遺言を作成したとします。
Aの一切の財産を、
・C(相続人)に2分の1の割合で相続させる →相続分の指定
・Cの子であるD(非相続人)に3分の1の割合で遺贈 →包括遺贈
・E(非相続人)に6分の1の割合で遺贈 → 包括遺贈
その後、Aは、死亡し、Eは、相続放棄したとします(民法990条、915条)。このように、複数の包括遺贈のうち1つが相続放棄によってその効力を失った場合、失効受遺分は、Cだけに帰属するのか、それともCとDに帰属するのかかが問題となります。
2 学説
失効受遺分は、相続人に加えて他の包括受遺者にも帰属するという考え方があります。
民法995条本文は「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。 」と記載されているところ、民法990条により「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」ので、民法995条の「相続人」には包括受遺者も含まれる、という考え方になります。
他方、失効受遺分はもっぱら相続人に帰属するという考え方もあります。
これは、包括受遺者は相続人ではないので、民法995条の「相続人」には含まれない、という考え方になります。
3 近時の最高裁判例
最判令和5年5月19日は次のとおり判示し、民法995条の「相続人」には包括受遺者は含まれず、失効受遺分はもっぱら相続人に帰属するとしました。
「民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。」
4 最後に
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