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コラム:特別受益が問題となった裁判例

2023.11.23
1 はじめに

親の子に対する金銭の支払いが生計の資本としての贈与にあたり特別受益(民法903条)に該当するかは、遺産分割において争われることがよくあります。

特別受益に該当する言われているものの代表例は以下のとおりです。
・居住用不動産の贈与
・居住用不動産の購入資金の贈与
・営業資金の贈与

反対に特別受益に該当しないと言われているものの代表例は次のとおりです。
・新築祝い
・入学祝い

以下では、特別受益が争われたを紹介していきます。

 

2 生活費の援助
1 一般論

被相続人が相続人に対し定期的な生活費の援助を受けていたことが生計の資本としての贈与にあたるかは、当該援助が親族間の扶養義務の範囲といえるかで判断されます。これは、被相続人の遺産総額、生前の収入状況などに照らして判断されることになります。

 

2 裁判例(東京家裁平成21年1月30日審判)

被相続人は、相続人の一人に対し、平成4年から同6年にかけて、1か月に10万円を超える生活費の援助をしていました。

被相続人の相続開始時の遺産総額は2億6712万4951円でした。被相続人の給与受給額は、平成2年から4年までが各792万円、平成5年が1056万円、平成6年及び7年が1188万円でした。

裁判所は、以下のとおり、遺産総額や収入状況からして1か月10万円を超える送金については生計資本としての贈与に該当し、それ以外は扶養的金銭援助の範囲内と判断しました。

別表3記載の平成4年×月×日から平成6年×月×日までの間に一月に2万円から25万円の送金がなされているが、本件遺産総額や被相続人の収入状況からすると、一月に10万円を超える送金(平成4年×月×日12万円、同年×月12万円、×月×日60万円、平成5年×月×日10万円、同年×月22万円、同年×月25万円、同年×月×日10万円、同年×月×日25万円)は生計資本としての贈与であると認められるが、これに満たないその余の送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり生計資本としての贈与とは認められないと思慮する。

 

3 学費の支払い
1 はじめに

遺産分割においては、大学の学費、留学費用、大学院の学費の支払いが特別受益に該当するかが問題となることがあります。

特別受益に該当するか否かは、被相続人の資産状況、社会的地位、教育水準、ほかの相続人との関係などに照らして判断されることになります。

 

2 大阪高裁平成19年9月6日決定

学校には公立、私立とあり、私立のほうが学費等がかかりますが、だからといって、公立と私立との差額分が特別受益とされることはありません。

大阪高決平成19年9月6日は、「子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもの」なので、特別受益に該当しないとしました。そして、仮に特別受益に該当する場合でも特段の事情のない限り被相続人の持戻し免除の意思が推定される、としています。

 

3 名古屋高裁令和元年5月17日決定

相続人の一人の2年間の大学院生活や、その後の10年間に及ぶ海外留学生活に対する被相続人の費用負担が特別受益に該当するかが問題となりました。

【原審】
「・・・上記のとおり主張する申立人の略歴は、・・・上智大学外国語学部フランス語学科を卒業後、同大学大学院、ソルボンヌ大学、パリ第三大学、パリ政治学院、ロンドン大学等々に学び、仏、英、米の各国への留学を経験しているところであって、被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて四年制大学へ進学することや、志望校に合格するために一定期間浪人をすること、また、在学中に短期留学をすることが特別なこととは解されない。」

【高裁】
裁判所は、「・・・学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当である。そして、被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて高度の教育を受けることが特別なことではなかったこと、原審申立人が学者、通訳者又は翻訳者として成長するために相当な時間と費用を費やすことを被相続人が許容していたこと、原審申立人が、自発的に被相続人に相当額を返還していると認められること、被相続人が、原審申立人に対して、援助した費用の清算や返済を求めるなどした形跡はない・・。また、被相続人は、生前、経済的に余裕があり、抗告人や抗告人の妻に対しても、高額な時計を譲り渡したり、宝飾品や金銭を贈与したりしていたこと、抗告人も一橋大学に進学し、在学期間中に短期留学していること、被相続人が支出した大学院の学費や留学費用の額、被相続人の遺産の規模等に照らせば、原審申立人の大学院の学費、留学費用は、原審申立人の特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、被相続人の明示又は黙示による持戻免除の意思表示があったものと認めるのが相当である。」としました。

 

4 東京高決平成17年10月27日

裁判所は、大学浪人時代の予備校代、大学の留年時の学費と生活費、医師国家試験の予備校代などの支払いについて特別受益に該当するとしました。

事案は概要次のようなものでした。
・大学受験に失敗し3年間浪人し、大学受験予備校に通った。
・大学に11年間在学した(通常は6年間で卒業できるところ、5年間余計に在学期間を要した)。
・歯科医師国家試験に2年続けて不合格となり、国家試験予備校に通っていた(2年間余計に期間を要した。)。
・被相続人が購入した乗用車を使用していた。

裁判所は、以下の合計額3001万円が特別受益に該当すると判断しました。
a 大学受験予備校に通学した学費(3年分) 192万円
b 大学受験料3年分 64万円
c 大学授業料(平成元年度から平成5年度までの授業料) 850万円
d 大学5年間の生活費 月額12万円 720万円
e 国家試験受験予備校の費用(授業料年額180万円の2年分。夏期講習20万円) 380万円
f 国家試験受験中(2年間)の生活費 月額12万円 288万円
g 自動車2台 402万円
h 維持費(自動車税等) 105万円

 

4 嫁入り道具・持参金、結婚式費用・結納金の支払い
1 嫁入り道具、持参金

「・・・民法903条1項の定める「婚姻のため」の贈与にあたるかを検討するに、嫁入り道具や持参金等がこれにあたることはいうまでもない。」(名古屋地判平成16年11月15日)。

 

2 結婚式費用・結納金

「・・・結婚式や結納の式典そのものに生じた費用については、婚姻する者のみならずその両親ないし親戚一同にとって重要な儀式であることに鑑みると、両親が子の結婚式や結納の式典に生じた費用を支出したとしても、それを両親から子に対する「婚姻のため」の贈与と評価すべきではないと解するのが相当である。」(名古屋地判平成16年11月15日)

また、名古屋家裁平成31年1月11日審判においても、「親が子の結婚式費用を負担することは、そもそも生計の資本の前渡しに該当するものではないということができ」る、「結納金の風習は、元来、夫となる者の親が妻となる者の親に対して支度金として交付する性質のものといわれており、本件の結納金の趣旨がこれと異なるものであるという特別の事情はうかがわれず、上記結納金が遺産の前渡しといえるだけの贈与とは認められない。」と判断されていります。

 

5 最後に

以上、特別受益が問題となる事例について説明しました。特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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