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コラム:後遺障害等級に対応する労働能力喪失率とは異なる数値とした裁判例

2024.01.05
1 はじめに

交通事故に遭った被害者に後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害逸失利益の計算が問題となります。

後遺障害逸失利益は、基礎収入額×労働能力喪失期間×労働能力喪失率で計算します。裁判例では、労働能力喪失率は、後遺障害等級に対応する労働能力喪失率をそのまま採用することが多いとされています。したがって、被害者の後遺障害が12級の場合、労働能力喪失率は、12級に対応する14%とされることが多いです。

以下では、自賠責の後遺障害等級に対応する労働同能力喪失率とは異なる数値とした裁判例を2つ紹介します。

 

2 京都地判令和4年3月23日(自動車保険ジャーナル2126号)
1 概要

後遺障害12級の被害者の労働能力喪失率を、症状固定後の就労状況、減収状況を踏まえて、症状固定時から定年までの15年間を18%(+4%)と判断しました。

 

2 事案

【後遺障害の内容、程度】
被害者は、症状固定時に、右母趾(親指)痛、右母趾MP、IP関節可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されていることから、「1足の第1の足指の用を廃したもの」として、12級12号の後遺障害が残存しました。

【就労への影響】
被害者は、本件事故当時、「第二種電気工事士、アナログ第三種工事担当者等の資格を有し、電柱等に登り、電線の張替えや機器の改修工事などの仕事に従事しており、胴綱と命綱を装着して電柱で作業をしていたもので、作業中や昇降の際に電柱の足掛けに足を掛けて身体を支えたりバランスを取る必要」がありました。

ところが、被害者は、本件事故後、「右母趾に力を入れにくい、曲げにくい等の状態で、踏ん張りが効かきにくい状況となり、本件事故後、勤務先からは上記のような高所作業は困難と判断」されました。

【減収状況】
被害者は、2により、深夜勤務や休日勤務がなくなり、これにより手当や付加給が減少しました。また、令和元年以降は現場作業をしなくなり、主に事務作業に従事することになり、業績給が減少しました。

被害者の減収状況は次のとおりになります。
平成28年 980万8436円 ※事故前年
平成29年 922万2798円 ※事故年
平成30年 833万2818円 ※症状固定年、事故前年の約15%減
令和元年  618万9720円

 

3 裁判所の判断

【労働能力喪失率】
裁判所は、被害者は症状固定後に高所作業等等ができなくなったこと、それに伴手当等の減収が実際に生じていること、症状固定時の平成30年度は事故前年よりも15%程度減収していることから、53歳から60歳(定年)までを18%、定年退職後を14%としました。

【基礎収入】
53歳から60歳(定年退職)までの基礎収入は事故前年の給与所得額としました。
定年退職後については、被害者は、本件事故当時の就労状況に特に問題がなかったことから、定年後の就労を継続する可能性は高いとされました。

その上で、定年退職後の基礎収入については、被害者は本件事故当時において年齢別男性平均賃金を上回る収入を得ていたことから、年齢別男性賃金とするべきとしました。

具体的には、
~64歳まで 平成30年男性平均賃金60ないし64歳の455万0800円
~68歳まで 同条65ないし69歳の364万6000円
としました。

【労働能力喪失期間】
後遺障害の内容が足指の用廃であること、本件事故後リハビリを継続しても後遺障害として残存していることを踏まえ、労働能力喪失期間を53歳(症状固定時)から68歳まで(平均余命30年の半分である15年間)としました。

 

3 金沢地判令和元年12月20日(自動車保険ジャーナル2085号)
1 概要

後遺障害14級の被害者の労働能力喪失率を、症状固定後の就労状況などを踏まえて、症状固定時から67歳までの29年間を9%(+4%)と判断しました。なお、被害者は、事故後、減収がありませんでしたが、減収を免れたのは本人の努力によるものとし逸失利益を認めました。

 

2 事案

【仕事の内容】
原告(症状固定時38歳)は、ビルの管理業務を営む会社に正社員として入社し、設備技術員としてビルの管理業務に従事していた。

【後遺障害の内容】
原告は、本件事故により、右上腕骨近位端骨折の傷害を負い、その程度は、右肩に金属プレート及びボルトを挿入する観血的骨接合術による手術を必要とする程度の重篤なものであった。
また、原告は、術後、継続して右肩の疼痛を訴え、症状固定時に右肩関節の可動域制限が残存し、右腕を上げようとすると右肩に痛みを感じるようになった。

原告は、残存した右肩の痛み等の症状について、「局部に神経症状を残すもの」として、後遺障害等級14級に該当するとの判断を受けた。なお、右肩関節の機能障害は、非該当の認定だった。

事故後の仕事の支障】
原告は、右腕を上げようとすると右肩に痛みを感じるようになり、建物の高い場所に設置された照明の電球や蛍光灯の交換作業を行う場面、重量物を運搬する場面、会議でホワイトボードの高い位置に文字を書く場面などで、業務に支障を生じ、同僚の手助けを必要とすることも少なくない状況にあった。

 

3 裁判所の判断

【労働能力喪失率・労働能力喪失期間】
「前記前提事実のとおり、原告には、後遺障害等級14級に該当する右肩の疼痛に加えて、この症状に由来すると認められる右肩関節の可動域制限が残存しているところ、原告の右肩関節の可動域制限は、患側(右側)肩関節の可動域角度が健側(左側)肩関節の稼働域角度の4分の3以下に制限されていないことから、自賠責保険(共済)の後遺障害等級の事前認定上、非該当とされたものの、原告の就労上、看過することができない程度のものである。また、原告は、残存した右肩の疼痛及び右肩関節の可動域制限により、従事するビルの管理業務に支障を生じ、同僚の手助けを必要とすることも少なくない状況にある。加えて、原告の右肩の疼痛及び右肩関節の可動域制限が本件事故後2年半余りを経過して軽減されたことはうかがわれない。
これらの点を総合考慮すると、原告に残存した右肩の疼痛及び右肩関節の可動域制限は、後遺障害等級14級に該当するにとどまるとしても、症状固定時38歳の原告は、67歳に達するまでの29年にわたり、労働能力喪失率9%(自賠法施行令別表第二における神経症状の後遺障害等級に該当する等級はないが、後遺障害等級13級に相当するものと評価する。)の労働能力を喪失したと認めるのが相当であり、この認定を左右する証拠はない。」

【事故後減収がなくても逸失利益が認められる】
原告の後遺障害の内容・程度に加えて、原告が従事する業務内容及び同業務への影響を総合すると、原告は、本件事故に残存した右肩の疼痛及び右肩関節の可動域制限を抱えつつ、その努力により就労を継続しているものと認められ、原告が本人尋問において、本件事故後に減収がない旨を供述したことを踏まえても、逸失利益の発生が認められる。」

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