1 はじめに
自営業者が交通事故により亡くなった場合、逸失利益の額が問題となります。逸失利益の計算に際しては基礎収入を確定する必要がありますが、自営業者の基礎収入は事故前年の確定申告所得額によって認定するのが原則となります。
亡くなった自営業者の事故前年の確定申告所得額がマイナスだった場合、基礎収入はゼロになり、逸失利益の発生が否定されるとも思われます。
以下では、事故前年に赤字申告していた自営業者が交通事故により亡くなった場合の逸失利益が問題となった京都地判令和3年3月23日判決(自動車保険ジャーナル2096号)を紹介します。
2 京都地判令和3年3月23日判決(自動車保険ジャーナル2096号)
1 事案
亡くなった原告は夫婦で雑貨店を経営していましたが、直近5年の申告所得額はいずれもマイナスでした。
2 裁判所の判断
【基礎収入額】
裁判所は、①直近5年間の売上金額から売上原価を除いた金額は400万円ほどであること、②毎月の生活費は25万円程度であること(年間300万円程度)を考慮し、基礎収入は、原告の年齢の賃金センサスの平均賃金の60%相当の280万1100円と認定しました。
「・・Aは原告とともに雑貨店を営み生計を立てていたこと、Aの雑貨店経営にかかる税務申告上の申告所得額は平成26年から平成30年まで、いずれも経費が収入を上回りマイナスであるものの売上金額から売上原価を除いた差額は平成30年を除き概ね400万円から500万円程度であったこと、雑貨店の収入や預金等の貯蓄に基づき毎月の生活費(支出額は概ね25万円から27万円)を支出していたことが認められる。
事故時点における事業が赤字であるとしても、逸失利益は将来得べかりし利益の算定に係るものであるから、当然に逸失利益が否定されるものとはいえず、基礎収入の認定においては、従前の収支の状況や稼働状況等を総合的に考慮するのが相当である。そして、上記に挙げた収支の状況、稼働状況等を総合すれば、Aにおいて、今後雑貨店の経営により一定の売上げは見込める状況にあったと認めることができるといえ、逸失利益における基礎収入としては、令和元年賃金センサス男性60歳ないし64歳平均賃金466万8500円の60%である280万1100円と認めるのが相当である。」
【生活費控除率・就労可能年数】
「前記前提事実、証拠(原告本人)によれば、Aは本件事故当時60歳であったこと、妻である原告と2人暮らしであったことが認められ、生活費控除率は40%が相当と認めるのが相当であり、60歳男性の平均余命は23.72年であるから、就労可能年数は11年とするのが相当である。計算式:280万1100円×(1-0.4)×8.3064(11年のライプニッツ係数)=1396万0234円(円未満切り捨て。以下同様)」
【関連記事】
✔生活費控除率についての解説記事はこちら▶コラム:死亡逸失利益の計算
3 最後に
弁護士費用特約に入っている場合、ご自身の保険会社が弁護士費用を負担することになるため、弁護士費用を心配することなく弁護士に交渉等を依頼することができます(関連記事をご参照ください)。のむら総合法律事務所にお気軽にご相談ください。
【関連記事】
✔弁護士費用特約に関する解説記事はこちら▶弁護士費用特約
✔のむら総合法律事務所に関するご案内はこちら▶事務所紹介