1 はじめに
原告側は交通事故により左肘部管症候群を発症したと主張したのに対し、被告側が事故態様等からして発症するはずがないと争った、大阪高判令和4年3月23日(自動車保険ジャーナル2125号掲載)について紹介します。
2 裁判所の判断
1 本件事故前に何ら症状がなかったこと
「控訴人は、本件事故前には左肘や左小指について何らの症状も訴えていなかった・・・のであるから、控訴人の左肘部管症候群は、本件事故後に発症したものと認められる」
以上からして、控訴人が本件事故前に左肘や左小指について何らかの症状を訴得ていた場合、結論が変わっていた可能性があります。
2 仕事が原因で症状が発生した可能性は低いこと
「控訴人は、本件事故当時、介護職としてEに勤務し、その従事していた仕事の内容は、①知的障害や自閉症を持つ者が行う空き缶潰し、織物、洗車等の仕事の見守りや送迎の運転業務、②知的障害や自閉症を持つ者の外出支援、③知的障害や自閉症を持つ者の食事支援や入浴サポートであって・・・、特別養護老人ホームにおける高齢者介護のように肘に負担がかかる介護業務に従事していたものではなかった上、控訴人は、平成3年○月○○日生まれの男性で、本件事故当時、24歳であり・・・、尺骨神経が菲薄してしびれが発症するまで長期間にわたり肘関節を酷使して働いてきた年齢でもないのであるから、控訴人が本件事故当時に従事していた介護の仕事が原因となって控訴人に左肘部管症候群が発症した可能性は低い。」
以上からして、控訴人が肘に負担がかかる業務に従事していた場合、控訴人の年齢が若年ではなかった場合は結論が変わっていた可能性があります。
3 事故態様からして発症した可能性が十分あること
「そして、本件事故によって控訴人車前部は大きく損傷していて、その衝撃は大きかったものと解され、本件事故による衝突時の衝撃により控訴人車の運転席側及び助手席側のエアバッグが作動し、控訴人の体が、運転席側のエアバッグがしぼむ程度にまで強く突っ込んだ後、その反動で運転席の背もたれに押し付けられている・・・のであるから、控訴人が、運転席側のエアバッグに突っ込んだ際や、その反動で運転席の背もたれに押し付けられた際に、左腕を車内のどこかに打ち付けるなり、左腕の肘関節が急激に過屈曲するなりし、それが原因となって、控訴人に左肘部管症候群が生じた可能性も十分にある。」
以上からして、本件事故の衝撃の程度が大きくなかった場合は結論が変わっていた可能性があります。
4 本人尋問によって結論が左右されないこと
「控訴人は、原審における本人尋問において、本件事故時に左腕や左肘を控訴人車の車内のどこかにぶつけたかどうかわからないと供述しているが・・・、本件事故による衝突時の衝撃は一瞬のことで、しかも、控訴人は体全体に衝撃を受けていたものであることからすると、本件事故から5年以上もの時間が経過した上記本人尋問の時点において、控訴人が、本件事故時に左腕や左肘を控訴人車の車内のどこかにぶつけたことを明確に供述することができなかったとしても、これによって、控訴人が、左腕を車内のどこかに打ち付けるなり、左腕の肘関節が急激に過屈曲するなりした可能性が否定されるものではない。」
3 最後に
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