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コラム:死亡保険金は特別受益に該当するのか

2023.11.19
1 はじめに

共同相続人の一人が被相続人の生命保険の受取人に指定されていた場合、死亡保険金請求権は特別受益には該当しません。
もっとも、事案によっては、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に不公平が生じる場合があり、一定の修正が必要なケースも出てきます。

このようなケースについて、最決平成16年10月29日は、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」は、民法903条の類推適用により特別受益に準じて持戻しの対象となる、としました。

そして、特段の事情の有無は、
①保険金の額
②保険金の額の遺産の総額に対する比率
③保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係
④各相続人の生活実態
などの諸般の事情を総合考慮することになります。

この判決が出て以降、多数の下級審裁判例の集積がありますが、東京家庭裁判所では、②が60%超えている場合、特段の事情ありとし、持戻しの対象とする傾向にあるようです。

以下では、②保険金の額の遺産の総額に対する比率が60%を優に超えていたが特段の事情なしとした広島高裁令和4年2月25日(法と家庭の裁判41号掲載)を紹介します。

 

2 広島高裁令和4年2月25日
1 保険金の額

①保険金の額は2100万円でした。

 

2 保険金の額の遺産の総額に対する比率

②保険金の額の遺産の総額に対する比率は「被相続人の相続開始時の遺産の評価額(772万3699円)の約2.7倍,本件遺産分割の対象財産(遺産目録記載の財産)の評価額(459万0665円)の約4.6倍に達して」いました。東京家裁の目安からすれば、持戻しの対象となるようにも思われます。

しかしながら、裁判所は、①②について「本件死亡保険金の額は、一般的な夫婦における夫を被保険者とする生命保険金の額と比較して、さほど高額なものとはいえない。」と評価しました。

裁判所は、このような評価を下す前提として、「公益財団法人生命保険文化センターの生活保障に関する調査(平成28年度速報版)によると、男性加入者が病気によって死亡した際に民間生命保険により支払われる生命保険金額の平均は、平成3年で2647万円、平成28年で1850万円であった。また、金融広報中央委員会の家計の金融行動に関する世論調査(2016年)によると、世帯主が20歳以上でかつ世帯員が21名以上の世帯の金融資産の保有額は、平均値が1078万円、中央値が400万円であった。」という事実を認定していることを見逃してはいけません。

 

3 保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係

③保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係については、「被相続人と相手方は、婚姻期間約20年、婚姻前を含めた同居期間約30年の夫婦であり、その間、相手方は一貫して専業主婦で、子がなく、被相続人の収入以外に収入を得る手段を得ていなかったことや、本件死亡保険金の大部分を占める本件保険1について、相手方との婚姻を機に死亡保険金の受取人が相手方に変更されるとともに死亡保険金の金額を減額変更し、被相続人の手取り月額20万円ないし40万円の給与収入から保険料として過大でない額(本件保険1及び本件保険2の合計で約1万4000円)を毎月払い込んでいったことからすると、本件死亡保険金は、被相続人の死後、妻である相手方の生活を保障する趣旨のものであったと認められる」としました。

 

4 各相続人の生活実態 

各相続人の生活実態については、「相手方は現在54歳の借家住まいであり,本件死亡保険金により生活を保障すべき期間が相当長期間にわたることが見込まれる。これに対し,抗告人は,被相続人と長年別居し,生計を別にする母親であり,被相続人の父(抗告人の夫)の遺産であった不動産に長女及び二女と共に暮らしている」事実が認定されました。

 

3 最後に

以上、死亡保険金は特別受益に該当するのかについて説明しました。特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。

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