1 はじめに
物損事故に遭い、車両の修理を要することになった場合の流れについて説明していきます。
2 修理場所の選定
被害者は、自動車ディーラー、中古販売店、ガソリンスタンドなどに事故車両を持って行って、修理費用の見積書を作成してもらうことになります。
修理工場の選定は被害者が自由に行うことができます。もっとも、修理費用の相当性が争われることになった場合、裁判所は、後述の裁判例とおり、修理費用の相当性の判断にあたり、修理工場の属性をも考慮するので、当該車両の正規ディーラやその指定工場に修理をお願いするのが望ましいと考えられます。
この点に関連して、東京地判令和5年3月23日を紹介します。この裁判例では、協定が成立せず、修理費用の相当性が争点となりました。以下、判旨を引用します。
「本件事故により、控訴人車には、左フロントフェンダの擦過痕等が生じたところ、本件事故の6日後である令和2年11月4日、メルセデス・ベンツのディーラーにおいて、控訴人車の損傷状況を確認し、左フロントフェンダについては交換修理を要すると判断され、工賃単価を9500円、指数を25.7時間として修理費用を合計42万9506円とする見積書(以下「本件見積書」という。)が発行されたことが認められる。控訴人車の状況及び本件見積書の作成経緯等に照らし、本件見積書に不自然不合理な点は窺われない。」
このように、裁判所は「本件見積書の作成経緯等」も考慮していますが、具体的には、修理費用の相当性を判断するにあたり、被害車両のディーラーに修理を依頼したことを加味していると思われます。
3 アジャスターの損害調査
ディーラーなど修理工場は、修理費用の見積り後、相手方の任意保険会社に連絡をすることになります。そうすると、任意保険会社側のアジャスターが、損害調査をといって、事故車両の損傷と事故との因果関係、損傷の合理的な修理方法、適正な修理金額などについて調査することになります。
損害調査の結果、修理工場の見積書とアジャスターとの見積書が食い違うことがあります。そして、協定が成立しない場合は、相当な修理費用の額について裁判所に判断してもらうほかありません。
前述のとおり、裁判所は、損傷状況、修理工場の属性、実際に被害車両を見分したかなどの諸点からして、修理工場の見積書に不自然、不合理な点が見受けられなければ、当該見積書の金額を相当とし、アジャスターの見解を排斥します。
この点に関連して、前述の裁判例では、アジャスターが作成した見積書について「左フロントフェンダの損傷状況(甲4〔3頁〕)に照らすとその修理が板金によるもので足りるとすることはできないがら、上記見積書をもって、控訴人車の損傷状況を実際に確認したディーラーが作成した本件見積書の内容が不合理であるとされるものではない。」としました。
なお、以上のとおり修理工場とアジャスターとの間で協定が成立しない可能性もありますが、だからといって、アジャスターの損害調査を飛ばして、先に車両の修理をした場合、修理費用の額について揉める可能性が高まります。まずはアジャスターの損害調査に協力するべきでしょう。
4 最後に
以上、物損事故における車両修理の流れについて説明しました。物損事故の場合、弁護士費用特約に入っておられる場合は、費用倒れの心配なく弁護士に依頼することができます。詳しくは関連記事もご参照ください。
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