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コラム:裁判所が自賠責認定を覆した裁判例

2024.01.05
1 裁判所は自賠責の判断に従う傾向にあること

損害保険料率算出機構において後遺障害等級が認定された場合、特段の事情がない限り、後遺障害等級に見合った労働能力喪失率と慰謝料の額について一応の立証がなされたと考えられています。

そのため、裁判所は、後遺障害の判断に際し、自賠責の等級認定に従うことが多いとされています。

もっとも、訴訟当事者が自賠責保険の等級認定を争った結果、裁判所が自賠責の等級認定を覆して、後遺障害は存在しないと認定する裁判例もあります。

そこで、自賠責が被害者の訴える神経症状は「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると判断したにもかかわらず、裁判所が非該当と判断した2つの裁判例を紹介します。

 

2 大阪地判令和 3年 1月21(自動車保険ジャーナル 2090号)
1 事案の概要

自賠責は、頸部痛、握力低下について「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると認定しました。

これに対し、被告側は、本件事故により頸椎捻挫が発生していないことについて医師の意見書を提出しました。原告側はそれとは反対の医師の意見書を提出していました。

 

2 裁判所の判断

裁判所は、原告側の意見書について、「頸部や頸椎に外力が加わる機序について具体的な説明がな」いことなどから、「本件事故により頸椎捻挫が発生したことが証明されたとはいえない」としました。

その上で、以下のとおり、衝突状況からしても頸椎捻挫が発生したとはいいがたいとしました。

「・・本件事故は、被告車の助手席のドアが、自転車のハンドルを握っていた原告の右手に右側やや後方からぶつかったというものであり、自転車のハンドルを握っている右手に右側やや後方から自動車のドアがぶつかったことにより、一定の衝撃があったとしても、その外力が頚部にまで及び、頚椎捻挫を起こすのかには疑問を差し挟む余地があり、少なくとも、このような機序で原告に頸椎捻挫が発生したことを裏付ける証拠はない」
「・・原告は、右側やや後方から衝撃を受け、左側に押し出されるような体勢になり、倒れそうになったが、左足で地面に踏みとどまってこらえ、原告車を停止させたのあるが、そうであるとしても、そもそも原告は、後ろから子供らが自転車で付いてきていたことから、ゆっくりとしたスピードで自転車を走行していたというのであるから、原告車の停止に際し、原告の頚部に過度の負荷が生じたとは、にわかに考え難」いとしました。

 

3 大阪地判令和3年2月9日(自動車保険ジャーナル2095号)
1 事案の概要

3回目の異議申立てを経て、自賠責は、「両後頚部~右上肢のしびれ疼痛等の症状は、他覚的に神経系統の障害が証明されるものと捉えることは困難であるが、頚傍脊椎神経ブロックやトリガーポイント注射等が多数施行されている治療状況等を踏まえれば、将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられる。」とし、自賠法施行令別表第二第14級9号に該当すると判断しました。

 

2 裁判所の判断

【過伸展等が生じる衝撃ではなかったこと】
「原告は、本件事故により頸椎及び腰椎を捻挫したと診断されているところ、捻挫の病態は、軟部組織(筋肉・靭帯等)の損傷であり、交通事故等の外力による場合、その外力により関節の可動域を超えて頚部や腰部が強制的に動かされること(過伸展・過屈曲等)によって生じるのが一般的な受傷機序である。」
「本件事故は、被告車を追い越して左折しようとした原告車の左後部に被告車の右前部が接触した事故であり・・・、その接触の際、原告車が大きく揺れたなどの事実は認められず、原告は「おい!何やってんねん!」などと怒声を発したのみで(甲13)、その後、原告車を停止させて降車した際にも、身体を気にするような素振りをしたとは全く窺われない(乙2の1)。また、被告車の後部座席にシートベルトを着用せずに着座していた乗客2名は、上記接触によって僅かに体を前方に持っていかれたにとどまり、前部座席に体が衝突したり、頚部を過伸展・過屈曲したりはしていないところ(乙2の2)、原告の身体に加わった衝撃もこの程度であったと推認できる。」
「そうすると、本件事故の際に原告の身体に加わった外力は軽微であったということができ、少なくとも、頚部や腰部が関節可動域を超えて強制的に動かされるような衝撃が加わったものではなく、したがって、本件事故の態様から直ちに原告が頸椎捻挫及び腰椎捻挫の傷害を負ったと認めることはできない。」

【神経ブロック注射を打つほどではなかったこと】
「原告の通院期間は約8か月半に及び、その間の通院頻度は極めて高く、合計34回にわたって頚部の神経ブロック注射・トリガーポイント注射が実施されている。」
「神経ブロック注射は、通常、内服薬や貼付薬によっても痛み等の症状が改善されない場合に施行されるものであり、本件事故の際に原告の身体に加わった外力が軽微であったと考えられること・・によれば、同注射を必要とする程度の症状が発現したということ自体、自然な経過であるとはいえない。」

【症状経過が不自然であること】
「診断病名は飽くまで頸椎及び腰椎の捻挫であるが、捻挫の病態は軟部組織の損傷であり、その組織損傷は2~4週間で修復され、症状は受傷直後に最も強く、損傷が修復されるに伴って軽快し、通常、3か月程度の通院治療をもって寛解ないし治癒するものである。」
「原告は、約8か月半の間、高頻度に通院し、多数回の神経ブロック注射を施行されながら、主観的症状に改善がないのであって、このような症状経過は、捻挫後の経過として極めて不自然であり、医学的観点から合理的に説明できないというべきである。」

 

4 最後に

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