1 はじめに
相続人のいない者が第三者に対し包括遺贈をする旨の遺言書を作成し、亡くなった場合、「相続人のあることが明らかでないとき」(民法951条)に該当し、相続財産清算人選任の手続をとる必要があるかが問題となります。以下、最判平成9年9月12日を紹介していきます。
2 事案
相続人のいないDは、遺言書により、同人が死亡した場合には同人の財産全部をA1に遺贈する旨の遺言を作成した。
Dは、生前、某銀行で、貸付信託に係る信託契約の受益証券を購入した。同受益証券については、受益者の請求により、受託者が買い取ることができる旨の定めがあった。
Dは、亡くなり、家庭裁判所により、Dの前記遺言の遺言執行者が選任された。
遺言執行者は、某銀行に対し、前記受益証券の買取り及び買取金の支払を求めたが、銀行はこれを拒んだ。そこで、遺言執行者は、銀行に対し、前記受益証券の買取金などの支払いを求めて訴訟提起した。
3 判旨
裁判所は、次のとおり、相続財産全部について全部包括受遺者がいる場合は「相続人のあることが明らかでないとき」に該当しない、としました。
「遺言者に相続人は存在しないが相続財産全部の包括受遺者が存在する場合は、民法九五一条にいう「相続人のあることが明かでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。けだし、同条から九五九条までの同法第五編第六章の規定は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管理、清算等の方法を定めたものであるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(同法九九〇条)、遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するのであって、相続財産全部の包括受遺者が存在する場合には前記各規定による諸手続を行わせる必要はないからである。」
4 判例の射程
なお、相続財産の一部について包括受遺者がいる場合は、最判の射程は及びません。残部については、相続人が不存在のため、相続財産清算人により清算されることになります。
5 最後に
遺言の一般的なことについては関連記事をご参照ください。
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