TOPICS

コラム:無償の相続分譲渡と生前贈与

2023.12.26
1 はじめに

例えば、父が亡くなり、その遺産分割の際に母が子の一人に自身の相続分を無償譲渡したとします。この場合、譲受人である子は、亡母の遺産分割において、「共同相続人中に、被相続人から、・・・婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」とされ(民法903条1項)、譲り受けた相続分の価格の持戻し義務負うことになるかが問題となります。

以下では、高裁と最高裁とで解釈が分かれることになった最判平成30年10月19日を紹介します。

【関連記事】

✔相続分の譲渡についての解説記事はこちら▶コラム:相続分の譲渡と放棄

 

2 事案の概要

父は、平成20年12月に死亡しました。父の遺産分割において、母は子4人のうちの1人(以下「甲」)にに対し自身の相続分を無償譲渡していました。

母は、平成26年7月、死亡しました。母は、生前、公正証書遺言を作成していたところ、相続人の一人である乙は、甲が父の遺産分割に際し母から相続分の譲渡を受けていたことが生前贈与に該当するとし、遺留分減殺請求(民法改正前)を行いました。

遺留分算定の基礎財産には一定の生前贈与も算入されるところ(民法1044条1項)、無償の相続分譲渡も生前贈与と同じく遺留分算定の基礎財産に含まれるかが問題となります。

 

3 裁判所の判断
1 原審

①「相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は、遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり、最終的に遺産分割が確定すれば、その遡及効(注:民法909条本文)によって、相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから、譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できない。

②「相続分の譲渡は必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず、譲渡に係る相続分に経済的利益があるか否かは当該相続分の積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定しなければ判明しないものである。」

原審は以上の2つの理由により相続分譲渡は、民法 903条1 項に規定する「贈与」に当たらないとしました。

 

2 最高裁

共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し、相続分の譲渡に伴って個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずるものと解される。
そして、相続分の譲渡を受けた共同相続人は、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割手続等に加わり、当該遺産分割手続等において、他の共同相続人に対し、従前から有していた相続分と上記譲渡に係る相続分との合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることができることとなる。
このように、相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは、以上のように解することの妨げとなるものではない
したがって、共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。

 

4 最後に

最高裁によれば、相続分の無償譲渡について、「譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合」は、特別受益である贈与に該当しないとしました。

最高裁の事案では、相続開始時の債務は約36万円の未払介護施設利用料債務のみであり、積極財産が消極財産を明らかに上回る事案だったので、相続分の無償譲渡が特別受益である贈与に該当するとされたことに注意が必要です。

特別受益について一般的なことは関連記事をご参照ください。

【関連記事】

✔特別受益一般についての解説記事はこちら▶その他の問題(寄与分・特別受益)

無料相談

無料相談

078-361-3370

078-361-3370

お問い合わせ

お問い合わせ